こんにちは! お菓子教室クレーヴスイーツキッチン主催の熊谷裕子です。今回はケーキ作りに欠かせない「生クリーム」について、その種類や使い分け、上手な使い方など、初心者さんのお菓子作りにも役立つ情報をご紹介します
生クリームとは?
「クリーム」と「乳等を主要原料とする食品」の違い
生クリームはもともと牛乳から乳脂肪分だけを取り出したもので、販売されている製品の品質表示には太字で「クリーム」と表示されているもののことです。つまり牛のミルクだけから作った純粋なクリーム、のことですね。
そこに乳化剤や安定剤を加えたもの、乳脂肪と植物性油脂を合わせて作られるコンパウンドクリーム、植物性油脂で作られるものなど、「乳脂肪」以外のものが入ったものはすべて「乳等を主要原料とする食品」と表示されます。
「生クリーム」と書いてある売り場に行くだけで、こんなに種類があると、いったいどれを使えばよいかわからない…となってしまいますが、それぞれの特徴を知り、上手に使い分けしてみましょう。
乳脂肪だけで作られる純粋な「クリーム」の特徴
「クリーム」と表示される生クリームは牛乳から乳脂肪を取り出して作られる「動物性油脂」のクリームです。ミルクの風味がしっかりとし、口の中ですっと溶けるので後味もよいので料理、お菓子作りとも最もよく使われるクリームです。味の上では最高ですが、賞味期限は短く、若干コスト高。ホイップしたクリームはデリケートなので、初心者さんには扱いがほんの少し難しいクリームです。
また生クリームには乳脂肪分が全体のどのくらい含まれているかで「乳脂肪分●%」と必ず表示があります。
生クリームとホイップクリームの違いとは?
生クリームとは上記の通り、原材料となる生乳から乳脂肪分だけを取り出したもの=動物性脂肪(乳脂肪)のこと。一方ホイップクリームは、動物性脂肪に植物性油脂や乳化剤や安定剤などを加えたものを指します。純粋な生乳だけを使ったクリームを使いたい場合は「クリーム」と表示のあるものを選ぶようにしましょう。
次に、生クリームとホイップクリームの種類を見ていきましょう。
■乳脂肪分30%以下のクリーム・・・お料理や飲み物などに(パントリークリーム)
生クリームでも乳脂肪分30%前後以下はホイップしてもふわっと空気を含まず、固さは出ないので、ケーキに塗ったり絞ったりすることはできません。主に料理やコーヒーなどの飲料用です。
中沢 パントリークリーム / 100ml
■乳脂肪分35%以上のクリーム・・・お菓子(泡立てたりデコレーションに)、料理にも
乳脂肪が35%以上のものはホイップすると空気を含み、ふわっとボリュームが出て、固さも付くので塗ったり絞ったりに適した生クリームということになります。
単純に脂肪分の割合が高いと濃厚でミルク感が強くなめらか、割合が低いとふわっとして軽いくちどけのクリームになります。
脂肪分は高いほど泡立ちやすいですが、その分固くなりやすく、また分離しやすいので注意しましょう。
濃厚でミルク感が強くなめらかな高脂肪タイプ
中沢 フレッシュクリーム45% / 200ml
低いとふわっとして軽いくちどけの低脂肪タイプ
中沢 フレッシュクリーム36% / 200ml
■ホイップクリーム (コンパウンドクリーム・植物脂肪クリーム)
純粋な「クリーム」は動物性脂肪の乳脂肪のみで作られる生クリームですが、それ以外のものが添加されているクリームはすべて「乳等を主要原料とする食品」と表示され、大きく分けて3種類あります。以下の3つです。
①生乳に安定剤を加えたクリーム
動物性脂肪のクリームに安定剤・乳化剤を加えたもの。
ミルク感や風味の良さは純粋なクリームと大きく変わらず、かつ分離しにくく、保形性がよい(塗ったり絞ったりしたクリームがダレにくい)といった利点があります。ほかのホイップクリームよりはコスト高。
②植物性クリーム
植物性油脂に乳製品、乳化剤、安定剤などを加えて作る植物性クリーム。
ホイップするのに少し時間がかかりますが、分離しにくいので塗ったり絞るときもボソボソになりにくく、初心者さんでも扱いやすいクリーム。賞味期限も長くコスト低ですが、風味は若干劣ります。
③コンパウンドクリーム
動物性脂肪にパーム油やヤシ油などの植物性油脂、乳化剤などを加えて作られたクリーム。乳脂肪のミルク風味を感じられるリッチな味と、扱いやすさ(分離しにくい)や保形性を併せ持ちます。コンパウンドクリームの中には、動物性脂肪と植物性脂肪の合わせたパーセンテージは同じでも(おおよそ45%)、動物性と植物性の割合が違う製品が多種あります。
コンパウンドクリームいろいろ
どのクリームを使ったらよい?使い分けは?
低脂肪タイプ(35~36%)・・・ホイップするとたくさんの空気を含み、ふわっとした食感。脂肪分が少ないので軽い口当たりになります。そのかわり安定性や保形性が少し弱いので、絞りなどがダレやすいことも。
高脂肪タイプ(45~47%)・・・脂肪分が多いため濃厚でミルク感が強く出ますが、ボリュームは出にくく少し重めの口当たりに。ホイップするときやナッベするときなど、さわりすぎると分離しやすい性質もあります。ただ保形性はあるので、ナッベや絞りに使ってもダレにくくきれいな形を保ちます。
乳化剤や安定剤が入っているコンパウンドクリームや植物性クリーム・・・風味やくちどけは劣りますが、低コストで分離しにくく、保形性もよいという利点があります。
ふわっとした軽さを出したいときは低脂肪クリーム、濃厚さや保形性を出したいなら高脂肪クリーム、クリームの扱いに慣れないときや作業性を重視するならコンパウンドクリームや植物性クリームをまずは選んでみましょう。
2種のクリームを混ぜることもある?
おいしいショートケーキを作りたい! でもちょっと上手に生クリームを塗ったり絞ったりする自信がない…そんな時は動物性のおいしいクリームに、作業性をよくする(分離しにくく、安定性が出る) コンパウンドクリームや植物性クリームをブレンドして使うこともあります。
また低脂肪タイプではさっぱりしすぎ、高脂肪だと濃厚過ぎ…という時は双方をブレンドすることも。例えば35%と45%の乳脂肪のものを同量まぜれば約40%の脂肪分のクリームになるので、程よい軽さと濃厚なミルクの風味、安定性のある仕上がりにすることができます。
余談ですが、私の修業時代でのお店では、ウエディングケーキを仕上げるときに「サンドするクリームは軽い低脂肪タイプ、ナッベ・絞りには安定性のある高脂肪タイプ」というようにパーツに合わせて使い分けていました。お客様にふわっと軽く、おいしいケーキをデザートとして味わっていただきたいという面と、ウエディングケーキは少しの時間お客様に「眺めていただく」保形性の良いものでないといけないという面を満たすためです。 これも、プロの技ですね。
生クリームの扱い、選択で注意したいこと
ではなんでもお好みに合わせてクリームは選べるかというと、注意しなければいけない時もあります。とくにチョコレートと合わせて作るガナッシュやシャンティ・ショコラ(溶かしたチョコレートとホイップした生クリームを混ぜて作るチョコクリーム)は、レシピで指定されている乳脂肪分のものを使用しましょう。違うものを使うと、固まらなかったり、逆にボソボソになって分離したりと上手にできないこともあります。
また生クリームは振動と温度変化に弱く、変質しやすいものです。購入したら必ずすぐに冷蔵庫(5度程度)に入れ、製品の温度が上がらないように。また振ったりして振動を与えると含まれいてる脂肪球が分離し、やはりよい状態を保てなくなります。
ガナッシュを使った参考レシピ
ヘーゼルナッツとオレンジのティグレ
ガナッシュには指定通りの脂肪分の生クリームを使いましょう。
抹茶のガナッシュ
指定通りの生クリームを使わないと、分離したり固まらないことも。
生クリームの上手な泡立ての方とコツ(何分立とは?)
まず生クリームはどうして泡立つのでしょうか。卵白が泡立つのとはまた違ったメカニズムがあります。少し科学的なお話になりますが、クリームの中に点在する脂肪球がホイップするなどの振動を受けると、バラバラだった脂肪球同士が次々と結合していきます。そのとき脂肪球同士の間に気泡が入り込み、ふわっとボリュームが出て空気を含みます。脂肪球の結合が進むとクリームに固さが出てきて、塗ったり絞ったりできるくらいになります。
このときクリームの温度が高くなると気泡があまり含まれず、ふわっとした口当たりになりません。またホイップしたクリームも温度が高くなると脂肪球の結合が不安定になり、分離しやすい状態に。さらに泡立てすぎるとザラつきが出始め、さらにはクリームに含まれる脂肪分と水分が完全に分離してしまいます。
×ボソボソに分離すると、元に戻ません。
簡単にまとめると、ポイントは3つ!
- クリームを泡立てるときはボウルごと氷水にあてるなどして温度を上げない
- 泡立てたクリームも温度が上がらないよう、冷やしながら使用する
- ハンドミキサーで途中まで泡立て、泡立て器に持ち替え最後は手で微調整して泡立て過ぎを防ぐ
ボウルごと氷水に当てて泡立て・使用する。
最後は泡立てすぎを防ぐため、手だてで微調整しましょう。
※ハンドミキサーを使わず、最初から手立てにするときは、メレンゲのように大きく空気を含ませるように泡立てるのではなく、左右に振るようにして「振動」をクリームに与えるよう泡立てるのがコツです。
5~6分立てとは?
持ち上げるとトロトロと流れ落ちるくらいの固さ。濃厚なレアチーズやビターなチョコレートと混ぜ合わせてチョコレートクリームを作るときに。
7~8分立てとは?
すくうとツノが立ち、やがてほんの少しお辞儀をする程度の固さ。ムースの混ぜ込みやショートケーキのナッペに。
8~9分立てとは?
すくうとしっかりと固いツノが立ち、絞るとエッジがしっかりと出る固さ。絞りのデコレーションやロールケーキの巻き込みに。
ナッペ・絞りの注意点
ショートケーキにホイップした生クリームを塗ったり絞るときも、クリームは「デリケート」であることを忘れてはいけません。扱いや温度管理には注意が必要です。
- ホイップしたクリームは冷蔵庫で一時保管することはできますが、時間がたつと水分が沈んでくるので、使う前に一度全体を混ぜて均一にします。
- 作業中もホイップしたクリームはボウルごと氷水につけて保冷しますが、上面は室温にさらされています。スポンジをスライスするなど作業は全て終わってからクリームを冷蔵庫から出しましょう。
- 何度もパレットでクリームをなでたりさわりすぎると「泡立てすぎ」と同じ分離状態に。
- スポンジに塗ったクリームも温度が上がってくるとクリームは分離しやすくなり、風味も落ちてきます。作業はスムーズに終わらせ、なるべく早くケーキごと冷蔵庫に戻し、食べる直前まで冷蔵庫で冷やしましょう。
- パレットはクリームがついたまま放置せず、その都度ボウルのふちにすり切ったりペーパーで拭くなどキレイな状態で作業しましょう。
- クリームはたくさん絞り袋に入れると絞るのに時間がかかり、持った手の体温でクリームの温度が上がります。初心者さんは少しクリームを入れては絞り、また入れてとこまめに補充しましょう。絞りに入れたまま放置も厳禁です。
どれも小さなことですが、少しずつの積み重ねでよりおいしくきれいな仕上がりになります。
パレットはいつもきれいにしておくように。こまめにペーパーなどでパレットについたクリームをぬぐい取るようにします。
×何度もさわりすぎると「泡立てすぎ」と同じ分離状態に。
×ザラザラに分離すると見た目の悪さだけでなく、クリームのくちどけが悪くなり、脂っぽい味わいに。
絞りもエッジがバサバサになってきます。
※土台に塗ったクリームも、絞り出したクリームも、どんどん温度が上がり、状態が悪くなります。なるべくスムーズに仕上げ、手早く冷蔵庫にケーキごと戻せるようにしましょう。
動画でコツを見る
動画でナッペのコツを見る
動画でサントノーレ絞りのコツを見る
バラ口金でフリル絞りを動画で見る
生クリームをナッベ・絞りの参考レシピ
クリスマスのショートケーキ
いちごスティックパイ
ベリーのスタンプケーキ
さくらんぼのスタンプケーキ
生クリームを泡立てすぎてしまったときは?
6~7分立てにしようと思ったのに、油断して泡立てすぎてしまった、8~9分立てになってしまった、ほんの少しだけザラつきが出てしまった。
そんな時は少しずつ液体のままの生クリームを加えてそっと混ぜてみましょう。少しゆるくなります。ただし泡立てすぎてかなりザラついてしまったり、完全に分離してしまったクリームはリカバーできないので注意しましょう。
生クリームにフレーバーをつけたいときは?
ショートケーキに使う生クリームには大抵8~10%程度に粉糖または上白糖を加え、一緒に泡立てて甘みをつけます。ブラウンシュガーや黒糖でも甘みがつけられますが、小さなダマが溶け残ってしまうことも。その場合は冷蔵庫で30分くらい置き、軽く混ぜ合わせるときれいに溶けます。
マロンの黒糖クリームパイ
マロンのドームケーキ
マロン風味の生クリームにしたいときは、サバトン マロンクリームを加えて一緒にホイップ。ただしマロンクリームは糖度が高いので、砂糖は不要です。
ピンクのクリスマスケーキ
ベリーのピンク色クリームにしたいなら、ベリーのジャムやフリーズドライパウダーがおすすめ。ピュレは水分が多く、たくさん入れるとクリームがゆるくなったりダレてしまうので、若干不向きです。
ジャムの場合は甘みがあるので砂糖は不要。そのまま生クリームに混ぜ込みます。フリーズドライパウダーはほんの少しの水でペースト状に溶いてから生クリームに加えるときれいに混ざりやすくなります。
気を付けたいのは、ベリー系のものを混ぜると生クリームは固く締まる性質があるので、液状かゆるめのホイップしたところに加えるようにし、適度な固さまで泡立てて使いましょう。自然なベリーり色合いなので、さらに鮮やかなピンクにしたいときは、少量の水に溶いた食紅をほんの微量加えても。
フレーバー付けにおすすめの商品
今回は生クリームを使ったクリスマスケーキのNewレシピを2品ご紹介します。
ベリー飾りの濃厚レアチーズケーキ
生クリームはしっかりホイップすると空気を含んで軽い食感になりますが、どっしりと濃厚な口当たりのお菓子にしたいときもあります。そんな時は泡立てずにそのまま、またはほんの少しホイップしてトロトロの5分立てくらいで混ぜ込みます。ここではクリームチーズをたっぷり使ったレアチーズケーキに生クリームを液状のまま混ぜ込み、なめらかで濃厚な口当たりに。対してデコレーションにはふわっとホイップしたクリームを絞り、食感と風味のコントラストが楽しめる仕上がりにしています。
中には甘酸っぱいベリーをサンドし、全体のアクセントに。
モカシャンティ
「モカケーキ」というとバタークリームのコーヒーケーキがポピュラーですが、ここでは生クリーム(シャンティ)をコーヒー風味にしてふんわり軽いコーヒー生クリームケーキにしてみました。ラム酒を香らせたシロップもほんのりスポンジにしみこませ、程よいほろ苦さのコーヒークリームをサンド・ナッベします。クラシックなデコレーション絞りでシックに仕上げる、大人のケーキに。
おすすめの商品
最後に
いかがでしたか。お菓子作りには欠かせない生クリーム。その特性とほんの少しのコツを知れば、シンプルなレシピもグンとおいしくなりますよ。ぜひいろんな生クリームも使い分けて、いつものお菓子作りをワンランクアップさせましょう。
コラム執筆:熊谷裕子(くまがいゆうこ)先生
熊谷裕子(くまがい ゆうこ)
公式Webサイトこの著者のレシピ一覧
葉山「サンルイ島」横浜「レジオン」世田谷「ル・パティシェ・タカギ」を経て、神奈川・中央林間でお菓子教室「クレーヴスイーツキッチン」主催。 文京区 にて「アトリエルカド」 も開講。著作に「デコレーションテクニック」「チョコレート菓子のテクニック」など多数。