こんにちは!オフィシャルクリエイターのけいちょんです。
富澤商店で沢山のレシピを公開させていただき、沢山のユーザー様に作っていただいているパンのレシピ。富澤商店では様々な小麦粉の取り扱いがある為、レシピに合う小麦粉は何かを考え、選びだした小麦粉を使ってレシピを作成しています。
ただ、いろいろな品種があるからこそ沢山の種類を用意するのは難しい。「今持っている粉をどうしても使いたい!」そう思うのも当然です。
そこで今回は、小麦粉によって異なる吸水率についてと、粉を代用したい時のポイントをご紹介します。
これを知っているだけで、パン作りでありがちな失敗をうまく回避できるようになりますので、ぜひ最後までご覧ください!
小麦粉の吸水率とは?

小麦粉の吸水率とは、小麦粉がそれぞれ持っている水分を吸収する能力のことで、この吸水率の違いによってどのくらいの水分を小麦粉が保持できるかが決まっています。
小麦粉の成分の約7割は「でんぷん質」、1割が「タンパク質」、その他は水分などが含まれているのですが、でんぷん質とタンパク質の両者が吸水をします。より大きく吸水に関わってくるのがタンパク質(グルテニンとグリアジン)で、タンパク質が多いほどより吸水率が高いと言われています。
この後の実験ではタンパク質の量がどのように影響しているのか分かるよう、以下のような表と合わせてお伝えしていきます。
春よ恋 | キタノカオリ | スーパーキング | |
タンパク質 (粉100g中) | 蛋白11.2±0.7% | 蛋白12.5±1.0% | 蛋白13.8±0.5% |
同じ国産小麦粉でも、異なる吸水率
最近注目されている国産小麦は、北海道から九州まで広い地域で栽培されており、品種や産地もさまざまです。これらの違いによって吸水率が異なるため、例えば吸水率が低い小麦粉で吸水率の高い小麦粉を使ったレシピをそのまま作ってしまうと生地がダレてしまったり、捏ねる際にひどくベタつき、捏ねることがままならないこともあります。
コラムではこちらの項目で同じ国産小麦粉でも異なる吸水率の粉で実験しています。
加水率とは?
ここまで吸水率の説明をしてきましたが、パン作りにおいて重要な「加水率」との違いにも触れてから吸水率の比較実験に移っていきたいと思います。
「加水率」とは、粉の量に対して入る水分の割合を差します。
ここでいう粉とは小麦粉だけでなく、米粉やライ麦粉、全粒粉、ココアパウダーなどの粉類が当てはまります。加水率は【 材料の水分量÷粉の量×100 】の計算式から求められます。
以前私が執筆したコラム「ベーカーズパーセントとは?」でも詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
国産、外国産小麦粉の吸水率の比較実験
国産小麦粉と外国産小麦粉で吸水率にどのような違いがあるのか、実際に小麦粉に水を加えて実験してみました。
まず最初に今回の実験に使った小麦粉をご紹介します。
国産小麦からは「春よ恋」と「キタノカオリ」。
外国産小麦粉は「スーパーキング」を使いました。
こちらのラインナップは定番の3種類なので、知っている方も多いのではないでしょうか。
加水率65%の比較
まずは3種類に一般的なパンを作る際の加水率である、加水率65%の水を加えて比較してみます。

3種類とも綺麗にまとまり、水分は過不足ないように見えます。そこで、それぞれ指先を使い同じくらいの力で押してみます。

すると、春よ恋が1番柔らかく、キタノカオリはやや硬め、スーパーキングは適度な弾力を感じました。
春よ恋 | キタノカオリ | スーパーキング | |
タンパク質 (粉100g中) | 蛋白11.2±0.7% | 蛋白12.5±1.0% | 蛋白13.8±0.5% |
触った感じ | 柔らかい | やや硬い | 適度な弾力がある |
加水率75%の比較
次に、加水率75%の水分を加えて比較します。これは一般的にバゲットなどのハードパンを作る際の加水率です。

先ほどに比べてどれも水分が多くしっとりとしているのが分かります。水分が馴染むまで10分ほど置いて触って比べます。

春よ恋、キタノカオリはグルテンがつながり始めていますがあまり伸びず、春よ恋に関してはベタつきを強く感じます。
スーパーキングは国産の2種に比べてとても滑らかに伸びます。触ってみた指に残った生地は春よ恋が1番多く、キタノカオリとスーパーキングはそれほど差を感じませんでした。
春よ恋 | キタノカオリ | スーパーキング | |
タンパク質 (粉100g中) | 蛋白11.2±0.7% | 蛋白12.5±1.0% | 蛋白13.8±0.5% |
生地の伸び具合 | あまり伸びない | あまり伸びない | 滑らかに伸びる |
ベタつき具合 | 強いベタつき、指に残る | 弱いベタつきで指には少し残る | 弱いベタつきで指には少し残る |
加水率85%の比較
次に加水率85%の水分を加えて比較してみました。ハードパンでも成形を要しないチャバタやリュスティックなどを作る際の加水率です。


どれもかなり水分量が多くベタついて見えます。実際に触って比較してみます。

春よ恋とキタノカオリはつまんで伸ばそうとするとすぐに切れてしまいます。指先に残る生地も多く、春よ恋に関してはほぼ指に残ってしまいます。ただ、キタノカオリに関してはベタつきますが、春よ恋ほど柔らかすぎることもなく指先にもあまり残りません。
春よ恋 | キタノカオリ | スーパーキング | |
タンパク質 (粉100g中) | 蛋白11.2±0.7% | 蛋白12.5±1.0% | 蛋白13.8±0.5% |
生地の伸び具合 | 伸ばすとすぐに千切れる | 伸ばすとすぐに千切れる | よく伸びる |
ベタつき具合 | 強いベタつき・指に生地が多く残る | 弱いベタつき・指にあまり残らない | 弱いベタつき・指にあまり残らない |
スーパーキングは加水率75%の時と同様に、先述の2種と比較すると良く伸びます。ただ少しベタつく印象があります。タンパク質が高いためだと予想できます。そこで、他の外国産小麦粉から「とみざわからの贈り物」、「カメリヤ」の2種類にも加水率85%の水分を加えて比較してみました。よりグルテンの差がわかるように水を加えてから30分ほど置いて比較しています。
とみざわからの贈りもの、カメリヤの比較

キタノカオリは混ぜた直後よりは伸びるようになっています。相変わらずやや硬さも感じるくらいの生地感があります。
とみざわからの贈り物は滑らかで、キタノカオリよりもよく伸びます。ベタつき度合いはスーパーキングとほぼ同等です。
スーパーキングは混ぜた直後に比べて滑らかな生地になっており、器を持ち上げてしまうほど強くグルテンがつながっていました。
カメリヤは1番よく伸びてグルテンも1番シルキーな見た目でした。ただ、スーパーキングと比較すると滑らかな生地ですが力強さは感じません。滑らかすぎる印象で、とみざわからの贈り物とスーパーキングに比べるとベタつきが強いです。
キタノカオリ | とみざわからの贈り物 | スーパーキング | カメリヤ | |
タンパク質 (粉100g中) | 蛋白12.5±1.0% | 12.7±0.5% | 蛋白13.8±0.5% | 蛋白11.8±0.5% |
生地の伸び具合 | あまり伸びない | 滑らかによく伸びる | 滑らかに伸びる、強いグルテンの繋がりを感じる | とても滑らかに伸びる |
ベタつき具合 | 強いベタつきで指に残る | 弱いベタつきで指に少し残る | 弱いベタつきで指に少し残る | 中間程度のベタつきで指に残る |
春よ恋、ハードブレッド専用と高加水用の比較
ちなみに春よ恋には「ハードブレッド専用」と「高加水用」もあります。その名の通り、ハードブレッドや高加水のパンを焼くときに適した春よ恋です。この2種類を春よ恋と比較してみます。一般的な加水率65%で比較した写真です。

ハードブレッド専用と高加水用は一般的な加水量ではやや粉っぽさが残り、特に高加水用はかなり硬めの生地感です。同じ春よ恋でもこのように品種によって吸水率がかなり違いますので注意が必要です。春よ恋のレシピをうっかり間違えて、高加水用の春よ恋で作ってしまったら固くてパサつくパンになる可能性があります。
春よ恋ハードブレッド専用 | 春よ恋 | 春よ恋高加水用 | |
タンパク質 (粉100g中) | 蛋白12.0±1.0% | 蛋白11.2±0.7% | 蛋白11.6±0.7% |
生地の具合 | カサっぽさが残る | 程よくまとまっている | 粉っぽく硬め |
ベタつき具合 | 全くベタつかない | しっとりしているがベタつきはない | 粉っぽくカサつく |
結果と所感
以上のように比較してみて分かったことは、外国産小麦粉はタンパク質の値が高いためグルテンが強く感じられよく伸びるということです。今回は捏ねませんでしたが、パン生地にして捏ねることでよりグルテンが強くなりボリュームのあるパンが焼けるのは納得です!
そして吸水率の良さだけでランキングを付けるとしたら…、
1位 | 春よ恋高加水用 |
2位 | 春よ恋ハードブレッド専用粉 |
3位(同率) | キタノカオリ、スーパーキング |
4位 | とみざわからの贈り物 |
5位 | カメリヤ |
6位 | 春よ恋 |
といったところでしょうか。
吸水率が低いと言われる国産小麦ですが、キタノカオリに関しては上記ランキングから分かるように外国産小麦粉とほぼ変わらず吸水できるということです。ただ外国産小麦のようによく伸びるグルテンではなく、脆い印象が強いです。
キタノカオリや外国産小麦粉で作られたレシピを、春よ恋(その他国産小麦粉)で置き換えたい場合は、念のため10%ほど水分を減らしてください。
そこから徐々に様子を見ながら水分を足すとベタベタしたりまとまらなくなったりという事態を防ぐことができると思います!
レシピ指定の粉を置き換える場合、失敗しないポイントは?
ここまでの結果や考察、私自身のパン作りの経験からお伝えするポイントは2つです!
ポイント①
国産小麦粉のレシピならできれば国産小麦粉で、
外国産小麦粉のレシピは外国産小麦粉で置き換えるのが安心。
富澤商店の小麦粉の場合、外袋(またはシール等)に産地が記載されているので確認できます。
ポイント②
国産小麦粉でも吸水率の高い「キタノカオリ」、「ハードブレッド専用粉」、「高加水用」の粉は他の国産小麦のレシピで使いたい場合は水分量を増やして作るのがベストです。
以上のことから、まずはレシピ通りの水分を加え、10%ほど余分に水分を用意しておき様子を見て徐々に加えるといいでしょう。また、ここには登場しませんでしたがゆめちから100%もタンパク質が高く吸水率がいいので同様です。(蛋白12.5±1.0%)
それでもベタついてしまったら…
それでもべたついてしまったら… 私の場合は以下の方法を取ることがあります。
粉量が400g程度(1.5斤分程度)までの場合なら、捏ねるのを一旦中止し仕込み量を1.2〜1.5倍(計算しやすい分量でOK)にすることを考えます。
まずは水分は省き、その他の材料を増やしたい割合分用意し、足します。そして水分を増やしたい割合よりも少なく準備し様子を見ながら足していきます。
この量であれば1斤+パウンド型や丸パン2〜3個で一度に焼ける分量、バターロール等なら天板2枚で焼ける分量になりますし、水分の調整も味や発酵に影響させずに行うことができます。
また、1.5斤の食パンなら2斤に変更して調整をすることもできますのでパンの種類によっては型を一段階大きくすることを考えても良いですね!
そして粉量が多い場合(2斤分約500g以上)は、上記のやり方ですと家庭用のオーブンで一度に焼ける分量ではなくなってしまう恐れがあるので、粉を10〜20gずつ足して捏ねられる硬さまで調整します。
もしも足した粉が元の粉量の10%以上(強力粉500gの生地なら50g以上)加えた場合は、味にも発酵にも影響してくるので、増やした粉量の割合分、副材料を足してから捏ね上げると良いです。
例)元の粉量540gで足した粉が75gだった場合、
75÷540×100≒14%(小数点以下四捨五入)となり、元の粉の約14%分足したことが分かるので副材料も元のレシピの分量×14%で計算して足せばOKです。
この場合は家庭用のオーブンで一度に焼くには不向きになるので、ベンチタイム〜2次発酵で元のレシピ量分は発酵器やオーブンの発酵機能で時間通りに、増やした分は室温発酵で発酵時間を長くし発酵完了時間を調整することで過発酵にせずに焼き上げることが出来ます。
粉と対話し、パン作りを楽しんで

いかがでしたでしょうか?今回は、パン作りにおけるお悩みの一つ、パンの生地がダレてしまう。ベタついてしまうという失敗の手助けの為、「小麦粉の吸水率の違い」についてお話しさせていただきました。
検証結果や所感、これまでの経験を基に色々と記述してきましたが、本来小麦という生き物に手を加え、パンは作られます。その時々の栽培環境や流通状況によって変わってきますので、パン作りの際、使う小麦粉との対話を重ね調整し、パン作りを楽しんでみてください。今回のコラムが少しでもパン作りのヒントになれば嬉しいです!
ご紹介商品使用のけいちょんさんおすすめパンレシピ
「春よ恋」使用
「キタノカオリ」使用
「スーパーキング」使用
「とみざわからの贈り物」使用
「カメリヤ」使用
「北海道産強力粉(ゆめちから100%)」使用
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コラム執筆:けいちょんさん

イーストだけでなく数種類の自家製酵母を使い、完全独学ながらお家で作れる「簡単だけど本当に美味しい家族が喜ぶパン」を日々研究中です。