こんにちは。自宅教室Nina kitchenを運営している三谷です。
今や日本でもクリスマスの定番になりつつあるシュトレン。少し早いのですが、ドライフルーツの洋酒漬けを作る場合、今頃から準備する方も多いのですよ。今回はシュトレンの歴史と、本場ドイツでの習慣にも触れながら、魅力に迫ってみます。
クリスマスの時期に食べる、ドイツの伝統的な発酵菓子
シュトレンとは、ドイツの伝統的なクリスマスの発酵菓子です。バターや洋酒漬けのドライフルーツがたっぷり入って、スパイスが効いているのも特徴的です。独特の形は、幼い主イエスキリストがおくるみに包まれている姿を現しているのは有名な話ですね。
ドイツでは、11月に入るとシュトレンを作り始めます。そして、少しの間熟成させて、クリスマス前のアドヴェント期間の毎週日曜日に少しずつスライスして家族でいただきながら
キリスト生誕の日を待ち望む、という習慣が今でもあります。毎週アドヴェントごとにアドヴェンツクランツのロウソクを1本ずつ灯し、2本、3本、そして4本全てのロウソクがつくと、いよいよクリスマスとなるわけです。
シュトレンは焼成後、溶かしバターに浸して砂糖でコーティングすることで長期間日持ちします。また、そのまま冷暗所で1週間ほどおくことでバターやドライフルーツの風味が生地全体に馴染み熟成されて美味しくいただけます。
呼び名について、日本では「シュトーレン」と発音、表記されることが多いですが、正しくは「シュトレン」と、のばさずに発音します。
近年では日本でも浸透し、クリスマス時期のみならず、様々なフレーバーが誕生していますよね。
シュトレンの歴史
シュトレンの歴史はかなり古く14世紀くらいから作られていたと言われています。
また、シュトレンの本場とされるドレスデンでは、次のような記録が残っています。
『ドレスデンで見つかった最古の記録は1474年で、聖バルトロマイ病院が受け取った請求書に「クリスマスブロート」と記されたものです。
1486年の請求書には、「クリストブロート2本、……貧しい人々に配るため」とも記されています。』※
クリストブロートとは、キリストのパンという意味で、現在のシュトレンに当たります。
やはり、イエスキリストのパンというだけあって古くから人々の救いとなっていたのですね。
ただ、この頃のシュトレンは今のとは全く違って、水、オーツ麦、菜種油などで作られた素朴なものだったそうです。当時はアドヴェント期間、乳製品の摂取が禁じられていたのです。
余りの味気なさに当時のザクセン選帝侯がローマ法王にバターの使用許可を求めて手紙を書きました。その甲斐あって、ローマ法王から「バター書簡」が送られたという有名な出来事があります。
『1491年、当時のローマ法王であるインノケンティウス8世は、「バター書簡」として有名なお達しをドレスデン宛に出し、それによってシュトレンには油の代わりにバターの使用が認められたのです。』※
本来この使用許可は「君主の周り」だけだったそうですが、次第に広義にとられるようになり、バターを使われることが広まっていったようです。
ただ、いつ頃からレーズンなどのドライフルーツが入ったのかは、はっきりわかっていないそうです。
考えられるのは、やはり十字軍遠征の影響、交易路の発達などで、ヨーロッパにもフルーツやナッツがもたされたのではないかというところですね。
19世紀ごろまでは、まだまだ高級品だったシュトレンも、20世紀後半になると人々の生活も豊かになり、家庭でも焼かれるようになったようです。
シュトレンのガイドライン
一口にシュトレンと言っても、ドイツ国内外、様々なベーカリーやケーキ屋さんでそれぞれ違った配合や材料で作られています。
ドイツでは独自の品質を守るためガイドラインが設けられています。特にドレスデンでは、ドレスデンの伝統的なシュトレンをブランド化するために商標登録もしているほど!
ではガイドラインの一部を見てみましょう。
『ドイツにおけるシュトレンについてのガイドライン(抜粋)
●シュトレンStollen(クリストシュトレン Christstollen)
粉100㎏に対してバター30㎏以上、ドライフルーツ60㎏以上
●ドレスナー・クリストシュトレン Dresdner Christstollen
(ドレスナー・シュトレン Dresdner Stollen)
粉100㎏に対してバター50㎏以上、サルタナレーズン65㎏以上、
レモン・オレンジピール20㎏以上、スイート種・ビター種アーモンド15㎏以上』※
このようにかなり細かく定められています。
他にもモーンシュトレン、マンデルシュトレンなど種類によっても定められています。
これらは消費者保護を目的としていますが、それ以上に、ドイツで愛され、作り継がれてきたシュトレンへの思い入れが強く感じられますよね。
日本でのシュトレン
日本でクリスマスのお菓子と言えば、私が幼少の頃1970年前後は、バタークリームでデコレーションされたケーキだった記憶があります。ちょっと古いですね。(笑)
でもその後すぐに食感の軽い生クリームのショートケーキが人気となり、しばらくはイチゴのショートケーキがクリスマスの食卓を飾っていたように思います。
バリエーションが出たとしてもチョコクリームのショートケーキくらいでしたね。成人した頃もシュトレンには出会わなかったように思います。
初めて知ったのは、90年代初め、海外赴任でドイツに住み始めてからです。
(実際にはベーカリー業界では80年代にはシュトレンは既に注目されていたようですが)。
ドイツでは11月に入ると街はすっかりクリスマス一色になります。
クリスマスマルクトが町の中心の広場に立ち、ツリーの飾りや、スパイスの効いたクッキー、グリューワインなどの屋台がずらりと並び、どこからともなくシナモンやナツメグなどのスパイスの香りがしてきて、今でもスパイスが香ると鮮明に蘇ります。
ベーカリーやケーキ屋さんでもお店オリジナルのシュトレンが売られ、それを楽しみにしていたものでした。
話を元に戻しますと、このようにバブル期に海外に出た日本人も多く、またバブル景気に押されて日本でも「新しい味」というものが求められて、海外の美味しいパンやお菓子が数多く日本に進出してきましたね。シュトレンもその一つと言われています。
ただ、シュトレンは香料(スパイス)が強すぎて、バターもたっぷりで日本人には重たく、初めの頃はなかなか浸透しなかったようです。
そこでパン業界も色々な取り組みをしたようです。
『82年でパンニュース紙は大きくシュトレン特集を組んでいる。それは大手製パン業者がシュトレンの販売に加わったことや、製粉会社や材料メーカーが日本人の好むシュトレンの提案を講習会などで行い始めたことにも起因する。』※
こうしたパン業界の方々や、日本のベーカリーの方々が日本人の嗜好に合ったシュトレンを探求し続けてきたこともあり、2000年代には当たり前のようにシュトレンがベーカリーに並ぶようになったと言われています。
今では、サマーシュトレン、和のシュトレンなど、クリスマス時期以外にも楽しまれていますね。
※文中の引用、参考文献:【シュトレン STOLLEN ドイツ生まれの発酵菓子、その背景と技術】
出版社:旭屋出版 著者/編者:シュトレン編集会 発行日:2013年12月2日 ページ数:128ページ
~シュトレンと、お屠蘇の意外な共通点~
先ほど、日本人はスパイスが強いのは苦手と申しましたが、お正月にいただくお屠蘇の中にも実はクローブやシナモン、八角、ナツメグなどのスパイスが入っているのですよね。
古来、体に良いと言われている生薬をお酒とともにいただいて、一年の無病息災を祈る習慣となっています。
シュトレンに使われているスパイスも、中世は薬としての効用もあり高価なものだったそうです。
それでも、年に一度のクリスマス、キリストの生誕を祝う特別な日のために高価なスパイスが使われていたのですね。
いずれも年に一度、家族皆が集いお互いの幸せを祈るという行事の中で、同じように「スパイス」が共通のアクセントになっているのは、素敵なことですね。
富澤商店レシピ「はじめてのシュトレン」を作ってみました!
本格的なレシピですが、写真付きで丁寧な解説がありますので初心者の方も作りやすいと思いますよ!ぜひ作ってみてくださいね。
まずは中種を作ります。捏ねて丸めてボウルに入れて発酵器へ。
本捏ねをします。バターをホイッパーでクリーム状にし、グラニュー糖、塩を入れて白っぽくなるまで混ぜ卵を少しずつ加えます。
アーモンドパウダーを入れて混ぜ、粉類も入れて混ぜます。
粉気がなくなったら中種を入れてこねます。
ドライフルーツ、ナッツを入れてたたむようにして混ぜ込み、発酵させます。
2等分しベンチタイムをとります。めん棒でのばし折りたたんで成形し2次発酵へ。
オーブンで焼き、バターをたっぷり塗ってグラニュー糖、粉糖をかけてラップに包みます。
数日寝かせると生地にドライフルーツの風味が馴染みしっとり美味しくいただけますよ。
おすすめ商品
シュトレン作りにおすすめな富澤商店の商品をご紹介します。
★おすすめポイント★
ハード系用の粉ですが、歯切れよく仕上がるので発酵菓子にも向いています。
サフ(金)インスタントドライイースト / 3g×20
★おすすめポイント★
糖分が多い生地なので、金サフを使用した方が発酵がスムーズです。
微粒子グラニュー糖 / 1kg
★おすすめポイント★
クセがなく、さっと溶けて生地に馴染みやすいです。
皮無アーモンドプードル / 100g
★おすすめポイント★
少量入れることで、生地にコクが出ます。
うめはら ミックスフルーツ / 400g
★おすすめポイント★
しっかりと味が染みていて美味しいです。
ドライフルーツを洋酒につける手間を省けます。
まとめ
いかがでしたか?シュトレンについて様々な角度から検証してみました。
思うに、ドイツ生まれのシュトレンがここまで日本に浸透したのは、シュトレンを愛する人々が祈りや喜びを込めて作り続けてきた長い歴史があるからこそ、ですね。
宗教的な要素もありますが、年に一度、家族や大切な人が集い、シュトレンをいただきながら、お互いの幸せや健康を願う、それが根底にあるというところが魅力的だと思います。
さて、富澤商店のサイトには、今回作ったレシピの他にも様々なフレーバーのシュトレンレシピが沢山あります。自分好みのシュトレンを見つけて、ぜひ作ってみてください。きっと、自分も周りの人も幸せになれるはず。
富澤商店のおすすめシュトレンレシピ
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コラム執筆:Nina kitchen三谷さん
「おうちのキッチンで作るおいしいパン&スイーツ」自宅教室Nina kitchen主宰。
ロースイーツクリエイター認定校。自宅教室にて基本のパン、オリジナル創作パンのレッスン開講中。