こんにちは!熊谷裕子です。
「カスタードクリーム基本編」では、本格カスタードクリームが上手に作れるポイントをご紹介しました。きちんと炊いたカスタードは、卵と牛乳のやさしい風味となめらかな食感が生き、なによりできたては本当においしいものですよね。
基本のカスタードクリームが上手にできたら、フレーバーをつけてバリエーションを広げたり、カスタードクリームをベースにしたお菓子にもチャレンジしてみましょう。
ホイップした生クリームやメレンゲなどをプラスするだけで、シュークリームやシブーストのクリームが簡単にできますし、ミルフイユやサントノーレなどの本格フランス菓子だって、実はカスタードクリームがベースになっているのです。
カスタードクリームを上手にアレンジできれば、お菓子作りの幅もずっと広がります。
1.カスタードクリームのフレーバーバリエーション
ナチュラルな風味のカスタードクリームはそのままでおいしいですが、リキュールや副材料などを加えて手軽にバリエーションを広げることもできます。
高級感をアップするリキュール
カスタードクリームのフレーバーで最も多く使われるのは、やはりバニラ。さらにリキュールを加えることで、お菓子に合った風味をつけ、より高級感を出すことができます。
カスタードクリームには、アルコール度が高め(40度以上)でキレがある蒸留酒が向きます。アルコール度が低く、糖分の多いフルーツリキュールなどは、風味がはっきりと出ず、ぼんやりとした味になってしまいます。
基本的には、カスタードクリームと合わせる素材と同じ系統のリキュール(柑橘類にはオレンジ系のリキュール、といったように)を使います。加熱すると香りが飛んでしまうので、必ず冷めてから少量加えること。フレーバーは何でも、「少量」がポイントです。
カスタードクリームに向くリキュール
コアントロー、オレンジキュラソー
コアントロー / 50ml
オレンジ系のリキュールです。フルーツ系にはオールマイティに使えます。さわやかなフレーバー。
キルシュ
3-タンネン ドイツキルシュ / 40ml
さくらんぼの蒸留酒。フルーツ全般、とくにベリー系に合います。ピスタチオなどナッツ系にも合います。
ラム
ネグリタラム / 50ml
ラム酒はサトウキビから作られる蒸留酒。キャラメルやチョコレートなどに合います。
副材料を加えて作るカスタードクリームのバリエーション
基本のクリームに色々な副材料を加えてフレーバーつけてみましょう。
※分量は「基本編」で紹介したカスタードクリームのレシピ量に対しての分量になっていますが、好みで調節してください。
チョコカスタード
大東カカオ カカオマス / 100g
炊き上がりの熱いうちにカカオマス40gを刻んでカスタードクリームに加え、余熱で溶かし込みます。カカオマスがないときは、カカオ分70%以上のビターチョコレートでも。エクレアなどにおすすめ。
カフェカスタード
【有機JAS】オーガニックインスタントコーヒー / 100g
粉末状のインスタントコーヒー6gを湯少量で溶きます。冷めたカスタードを混ぜ戻すときに一緒に加えます。
ごまカスタード
マコト クリーム状ごま(ねりごま黒) / 180g
黒ごまのペースト60gを、冷めたカスタードを混ぜ戻すときに一緒に加えます。和風のエクレアやシュークリームになりますよ。
2.カスタードクリームをベースにしたクリームのバリエーション
次にカスタードクリームにプラスαして作る、代表的なクリーム2種をご紹介しましょう。
実際にカスタードクリームを使ってお菓子を作るとき、クリームそのまま使うお菓子は意外と少ないもの(エクレアや、生クリームと2層仕立てのシュークリームなど)。脂肪分が少なく、さっぱりとしているので、生クリームやバターを加えてリッチにすることが多いのです。
ここでは「カスタード+○○」でよりレベルアップするクリームと、それを使った代表的なお菓子をご紹介します。
クレーム・レジェール
Crème Légère (別名クレーム・ディプロマット)
カスタードクリーム+ホイップクリーム
ホイップクリームと合わせてクリーミー&ライトに
直訳すると、「軽いクリーム」。固く泡立てた生クリームを全体の重量の2~3割量さっくりと加えると、適度な脂肪分と空気が混ぜ込まれるので、リッチで軽い食感のクリームになります。
例えば150gのカスタードクリームに固くホイップした生クリーム50gをさっくりと合わせてクレーム・レジェールにし、シュー皮にたっぷり詰めてシュークリームを作ると本当においしいです!生クリームっぽいのが好きならカスタードクリームの半分量となる75gくらいまで生クリームを増やしてもよいでしょう。
たっぷり詰めても重くないクレーム・レジェールは、シュークリームに一番よく使われます。またフルーツをのせるタルトにこのクリームを少量はさむことで、タルト台との一体感が出て、フルーツとタルトのおいしさを引き出します。
クレーム・レジェールを使った代表的なお菓子
シュークリーム
たっぷりクレーム・レジェールを詰めてほおばりたい!
フルーツのタルト
クレーム・レジェールをはさむことでおいしくなるだけでなく、タルト台とフルーツを接着し、一体感を出します。
私のおすすめは「ふわっと軽く、歯切れのよいクレーム・レジェール」。
作り方のポイントはこちら!
- 生クリームは無糖のまましっかりと固く角が立つまで泡立てる(ざらつきが出始めるくらいの9分立て)。クリームがゆるいと、カスタードクリームと合わせた後でだれてゆるいクリームになってしまう。
- 基本のカスタードクリームをよく冷やしたら、固まっているクリームをゴムベラでほぐすように混ぜ戻します。ここで泡だて器などでぐるぐると混ぜすぎないように。やわらかくなりすぎてしまうので、ほぐれるくらいでOK。 バラエッセンスやリキュールを入れるときはここで一緒に混ぜ込む。
- 1の泡立てた生クリームを2回に分けて加える。この時ゴムべらでさっくりと切ってはひっくり返すようにし、全体を大きく混ぜるようにする。クリームがだれてしまうので、けっしてぐるぐると混ぜてほぐしすぎないように。
- 8~9割混ざり、若干混ぜムラが残るくらいで止める。混ぜすぎないように。混ぜ終わりはクリームが少しだけゆるくなるが、お菓子に組み立て、もう一度冷蔵庫で冷やされるとまた少し締まってくる。
クレーム・レジェールの保存
冷蔵庫で保管し、お菓子に組み立ててからもなるべく早くいただきます。
冷凍はできません。
クレーム・ムースリーヌ
Crème mousseline
カスタードクリーム+バター
バターと合わせてなめらか&コクのあるクリームに
クレーム・ムースリーヌはカスタードクリームにバター(バタークリームの場合もあります)を合わせたものです。カスタードクリームに対してのバターの割合はレシピによっていろいろですが、おおよそカスタードクリームの重量の1/3量程度のバターを加えて作ります。
ここで重要なのは、合わせるだけでなく、しっかりと泡立て、空気を含ませること。そうでないと、ただ濃厚で、重いだけのカスタードクリームになってしまいます。
カスタードベースのバタークリーム、と言いかえてもよいかもしれませんが、バターの割合も少なめで、上手に作れば、きっと「そんなにバターが入っているなんて思えない!」ほどなめらかで口どけがよく、クリーミーなできあがりに。
クレーム・レジェールよりコクを出したいときや、ミルフイユのように湿気を嫌う生地に合わせるときなどにクレーム・ムースリーヌを使うとよいでしょう。バターを含むため、冷えると固まって形を保つことができるので、フレジエのように型から抜き、カットすることも可能です。
クレーム・ムースリーヌを使った代表的なお菓子
フレジエ
濃厚なクレーム・ムースリーヌに酸味のあるたっぷりイチゴがおいしい組み合わせ。トロピカルフルーツなどでアレンジも!
ミルフィユ
パイ生地に水分の多いクリームをサンドするとすぐに湿ってしまったり、カットするときはみ出してしまいますが、バターの多いクレーム・ムースリーヌならパイも湿気にくく、冷えると固まるのできれいにカットしやすくなります。またその濃厚な風味はパイとの相性も抜群です。
作るプロセスで最も重要なのは、カスタードクリームとバターを合わせるときの温度と状態です。カスタードクリームが温かいとバターが溶け出し、空気を含まなくなります。またバターが固かったり、冷たすぎると乳化せず、分離することがあります。両方を適した状態にしてから合わせ、よく泡立てて軽くするのがポイントです。
作り方のポイントはこちら!
作り方
- 基本のカスタードクリームを作り、冷ます。このとき、常温(20度くらい)に冷めればよい。注意点
冷蔵庫に入れるなどしてあまり冷えすぎていると、バターを加えたときに急激にバターが冷やされ、分離することがある。また逆に温かいとバターが溶け出し、泡立てても空気を抱かず、いつまでもダラッとした状態のままになってしまう。そうなるともう一度冷やしてもよい状態には戻らない。 - 無塩バターは常温に置くか、レンジで数秒温め、練ってクリーム状にする。注意点
決して液状に溶かさないように。バターはその性質上、一度溶けるともとの状態には戻らないので、溶かしたものをもう一度冷やしてもよい状態にはならない。また固すぎるとクリームにしたときに分離したり、バターのダマが残ることがある。 - カスタードクリームに2の無塩バターを2回にわけて加えていく。半分加えてハンドミキサーの低速で泡立てる。最初はクリームが重く、回りにくかったり、クリームがからみついたりするが、しっかりと攪拌する。
- 残りの無塩バターを加え、さらに低速で泡立てていく。だんだんとクリームが軽くなり、白っぽくなる。ホイッパーの跡がはっきりと残るようになるまで空気を含ませる。
- 黄色いカスタードクリームが白っぽくなり、しっかりと泡立ってツノが立っている状態。ここまでの状態になったら、フレーバーやリキュールを加えて軽く混ぜ合わせてできあがり。
クレーム・ムースリーヌの保存
できあがったものを冷やすと固まります。もう一度ほぐすだけでは元に戻らず、分離するので、できあがったらすぐにお菓子に組み立てます。カスタードクリームが入っているのでなるべく早めにいただきます。冷凍には不向きです。
3.その他のカスタードクリームをベースにしたクリーム
クレーム・シブースト
crème chiboust (別名クレーム・ア・サントノーレ)
カスタードクリーム+メレンゲ
メレンゲを加えてふわっと淡白なクリームに
カスタードクリームにメレンゲを合わせ、ゼラチンで保形性(形を保たせる)を持たせたクリームです。伝統的なフランス菓子の「タルト・シブースト」に使われるのでその名がついています。
ふんわりと軽い食感が特徴で、脂肪分も少ないので、タルトやパイなどしっかりとしたベースやクリームなどに合わせることが多いクリーム。
バリエーションもつけやすく、カスタードクリームの牛乳に風味をつけたり、フルーツのピュレにかえて作ることもあります。シブーストのようにセルクルに詰めて固めたり、「サントノーレ」というケーキに絞ったりと、形も自在です。
殺菌目的や、保形性を強めるためにプロは加熱して作るイタリアン・メレンゲを使いますが、家庭では作りやすいフレンチ・メレンゲで手軽に作ることもできます。ポイントは、メレンゲの固まりを残さないよう、かつ泡を消しすぎないようにふんわりと合わせて仕上げることです。
クレーム・シブーストを使った代表的なお菓子
シブースト
クレーム・フランジパーヌ
Crème frangipane
カスタードクリーム+クレーム・ダマンド
しっとり風味豊かな「焼き生地」
このクリームはほかのカスタード系クリームと違い「焼く生地」です。そのまま生で食べることはありません。レシピにもよりますが、おおよそクレーム・ダマンドに対して50%~60%くらいのカスタードクリームを混ぜ込んで作ります。
もともと「クレーム・ダマンド」(別名アーモンドクリーム)は、バター、砂糖、卵、アーモンドパウダーを同割で作り、タルトなどに詰めて焼き上げる生地ですが、ここにカスタードクリームを混ぜ込むことでよりしっとり軽めの食感になり、これを「クレーム・フランジパーヌ」と呼びます。
クレーム・ダマンドと同様にタルトの土台や、パイ生地に挟んで「ガレット・デ・ロワ」を焼き上げるときに使われます。
クレーム・フランジパーヌを使った代表的なお菓子
洋梨のタルト
4.カスタードクリームのおすすめNewレシピ
カスタードクリームを応用した春のメニューをご紹介します。
クレーム・レジェールを使ったイチゴのパイシュー
「シュー・シュルプリーズ」は「びっくりシュークリーム」という意味。パイ生地にシュー生地をのせて焼き上げると、びっくりするくらい膨らみます!たっぷりのクレーム・レジェールと季節のフルーツを詰めましょう。ほおばって食べるシアワセは手作りならではですよ!
クレーム・ムースリーヌを使ったいちごたっぷりケーキ
しっかりとホイップして作ったクレームムースリーヌにピスタチオペーストを加え、リッチなフレジエに仕上げました。
ピスタチオグリーンの仕上げが爽やかです。プレーンのクリームに赤いナパージュ仕上げもご紹介。
濃厚なクリームにたっぷりと酸味のあるいちごをサンドするのがポイントです。冷凍スポンジの生地を使えば、手軽にチャレンジできますよ。
最後に
いかがでしたか?
カスタードクリームはシンプルな基本のクリームですが、実はいろいろなお菓子に使われる万能クリーム、でしたね。ぜひ皆さんのお菓子作りに「おいしいカスタード」、取り入れてみてください。
コラム執筆:熊谷裕子(くまがいゆうこ)先生
公式Webサイト
この著者のレシピ一覧
葉山「サンルイ島」横浜「レジオン」世田谷「ル・パティシェ・タカギ」を経て、神奈川・中央林間でお菓子教室「クレーヴスイーツキッチン」主催。
文京区 にて「アトリエルカド」 も開講。著作に「デコレーションテクニック」「チョコレート菓子のテクニック」など多数。