パン生地作りにおける卵の役割とは?水・卵黄・卵白の違いを徹底比較

比較・検証

こんにちは!オフィシャルクリエイターのけいちょんです。

パン作りをしていると時々疑問に思うことがあると思うのですが、中でもよく聞かれるのが「卵」についてです。卵ってほんの少しだけど入れた方がいいの?何かと置き換えできる?など、よく質問される材料でもあります。

今回はそんな卵について、パン生地に与える影響をご紹介するのとともに、実際に水・卵黄・卵白で捏ねたパンを焼き比べしてみた結果もご紹介します。

私自身、思いもよらない結果になりましたのでぜひ最後までご覧ください!

パン生地における卵の役割とは?

パンを焼く時の基本材料は「小麦・水・塩・酵母」です。これさえあれば美味しいパンが焼けるのですが、レシピによって「砂糖」や「牛乳」、「バター」や「卵」といった一般的に「副材料」と言われる素材を加えることが多いですね。
これらの副材料にはそれぞれ役割があるのですが、その中でも「卵」はレシピによって入れる・入れないの差が大きく、量もさほど多くないために「置き換えても大丈夫?」「省略してもいいかな?」と迷ってしまいがち。
入れないレシピがあるから省略しても大丈夫、と思うと大失敗なんてことも。では卵はパン生地の中でどういう役割があるのでしょうか。

まず卵は殻・卵黄・卵白で構成されていますが、その割合は基本的に1:3:6と言われています。
その中でも卵黄は約50%、卵白は約90%が水分で構成されているためパン生地に対しては水(水分)として入れるというイメージがあるかと思いますが、それぞれに含まれる脂質やタンパク質により以下のような効果があると言われています。

①パンの老化を遅らせる

パンの老化については前回のコラムでご紹介した通りですが、卵(卵黄)を入れることで老化のスピードを遅らせることができます。これは卵黄に含まれるレシチンという成分のおかげ。レシチンとは脂質の一種で、乳化作用があります。このレシチンの働きを活かした代表的なものが「マヨネーズ」です。油と酢、通常では混ざらない二つの素材を卵黄を加えることで乳化させ安定させた食べ物です。
このレシチンはパン生地内で、水分と油分を結びつかせ安定させることで水分が抜けてパンが固くなるスピードを遅らせる働きをしてくれます。

②しっとり滑らかな生地になる

卵黄にはレシチンをはじめ脂質が含まれているためパン生地に油分が加わることでしっとりとした生地になります。また乳化作用により滑らかな生地に仕上がります。

③膨らみを助ける

卵白には多くのタンパク質が含まれており。このタンパク質は加熱すると固まる性質があります。なので卵白を配合することで生地の骨格が強くなり腰折れしにくい膨らみのあるパンに仕上げることができると言われています。

④風味や焼き色をよくする

卵を入れることで、パン生地が黄色く色づき美味しそうに見えたり、艶出しとして焼成前に塗ることで見た目を良くする効果もあります。卵を配合した生地は、そうでない生地と比べるとコクのある香りが特徴で香ばしさもよくなり、色づきも良くなります。
卵を配合することでパン生地にいい影響があることがわかりますが、ではなぜ入れないレシピがあるのでしょうか。

なぜ卵を入れないパン生地があるの?

パン生地に卵を入れることで、ふっくらと口触りよく滑らかでこんがりと香ばしくパンが焼き上がるならどのパンにも入れたほうがいいのかな、と思いたくなりますがそれはちょっと待ってください!
パンにも色々種類があります。
シンプルなフランスパン、白く柔らかく焼き上げる白パン、こんがり焼き上げるバターロール、パネトーネやブリオッシュのようなリッチでお菓子のようなパン。
それぞれのパンにはそれぞれの良さがあり、それぞれのおいしさがあります。

例えば高温で焼き上げるフランスパンに卵を入れたら色づき過ぎて焦げてしまうでしょう。
白パンに卵を入れたら生地は黄色くなり白く焼き上げたくても焼き色がつきやすくなります。こんがり焼き上げないので生焼けの卵のような香りがしてしまうことも。
逆にバターロールに卵を入れなければ、そして艶出しに塗らなければコクが薄くツヤや焼き色も控えめでちょっと物足りないかもしれません。

それぞれのパンの個性を引き出すために、副材料はコントロールされています。
もちろん体質などに合わせて置き換えや省くこともできますが、アレルギーや健康面で特に心配がなければまずは配合通りに作るのが一番美味しいのではないでしょうか。

水・卵黄・卵白で実際に焼き比べてみる

卵を入れると色々といい影響があることはわかりましたが、実際そんなに違いってあるのかな、、、と思いますよね。
なので、私も初めての試みですが水・卵黄・卵白でそれぞれ捏ねてパンを焼いてみることにしました。
配合はできるだけシンプルにし、卵黄は一個分(20g)使用し調整として少し水を足して水分量を調整しています。卵白は一個分でちょうどいい水分量だったので水は足さずに作りました。

基本配合(ベーカーズ%)

基本配合をもとに、卵黄生地では卵黄内の水分に水を足して基本配合と同じ加水量になるよう調整した配合のが以下の通りです。

基本配合をもとに今回調整した配合

卵白生地では

基本配合をもとに今回調整した配合(卵白生地)

こちらは水分量は基本配合とほぼ同じなのでそのまま捏ねました。

粉と水分をボウルの中で合わせます。
水はすんなりと小麦粉と結びつきます。卵黄はベタベタしてゴムベラにくっつきやすいですが小麦粉とも馴染みやすかったです。卵白はなかなか小麦粉と馴染まずベタつきもありまとめるのが少し大変でした。
ここから台に出して捏ねます。

グルテンがしっかり引き出されるまで捏ね、バターを加えます。
水はいつもの生地といった感じでベタつきは一瞬でその後はあまり感じず徐々に滑らかになっていきいます。
卵黄生地は最初は台にも手にもかなりまとわりつきますが、しばらくするとあっという間に滑らかになりました。捏ね時間は水よりも短くてすみました。
卵白生地はとにかく固く、ベタつきます。ベタつきがおさまってきても、なかなか滑らかな生地にならずにゴツゴツとした表面のままです。水の倍の時間捏ねましたが滑らかになる気配がなかったので限界だと思いバターを加えました。

バターを加えてからのスピードの違いに驚きました。
水はいつも通りという感じなのですが、卵黄生地はバターが馴染むのがとても早くあっという間にツルンと滑らかにまとまりました。生地もとっても柔らかく感じます。
卵白はバターを入れるときも、入れてからもなかなか滑らかになりません。
なんとかバターを馴染ませて丸めました。
ここから一次発酵に入ります。

水・卵黄生地は一次発酵は1時間でスムーズに進みました。その後ベンチタイムを15分とり、ワンローフ成形で型入れしました。
卵白生地は一次発酵がなかなか進まず、1時間50分とおよそ倍の時間かかってしまいました。型入れした時もふんわりした感じが少なく、水と卵黄生地に比べて小さく見えます。

二次発酵は水・卵黄生地が45分ほど、卵白生地は1時間半かかりました。焼成直前の写真はどれもほぼ同じ大きさです。

200度に予熱したオーブンで10分焼きました。
焼き上がり直後の写真です。水で捏ねたパンは焼き色が控えめですが綺麗に焼き上がっています。
卵黄生地はびっくりするほど膨らみました。
卵白生地はあまり膨らみませんでしたがしっかりと焼き色が付いています。

全部焼き上がった後に並べてみました。
こうやって比べると、水で捏ねたものは窯伸びもして美味しそうに焼き上がっていますが、やや焼き色が控えめです。
卵黄生地は驚くほど膨らみました。焼成前の状態と比べると倍ほどに膨らんでいます。まさかこんなに膨らむと思わなかったので焼成中に思わず声が出てしまうほどです。

卵白生地は水で捏ねたものより少し小さく見えます。
卵白は膨らみやすくなると思っていたので驚きの結果です。
おそらく硬くてうまくグルテンを出せなかったために膨らみが小さかったのではと思います。
また発酵に時間がかかったのは、卵白に含まれている殺菌効果(リゾチーム)が働いたためにイースト菌の働きも抑えられてしまったのかもしれません。これもまた驚きの結果でした。

断面を比較すると卵黄生地には大きな穴が空いていました。ワンローフ成形は中心に必ず生地がきますのでこのような穴が空いてしまうことは少なく、おそらくこの穴は生地が膨らむときに引っ張られたことで空洞ができてしまったのかなと思います。
水で捏ねたものはしっとり柔らかく、卵黄生地は気泡が大きめでふんわりと膨らんでいるのがわかります。
それに比べ卵白生地はぎゅっと詰まった印象があります。

実際に切って食べてみました。
薄く切ってちぎってみると、水で捏ねた生地は柔らかく裂けるように横によく伸びます。食感もしっとりしています。
卵黄生地は気泡が大きいことと、卵黄に含まれる油分もあり、また乳化作用が働いたためか柔らかいですが歯切れよく口溶けもいいです。
卵白生地はちぎると焼きたてなのにパサパサで割れる感じで生地も硬く食べられないことはありませんが食感としてはかなりパサつきを感じました。

焼いた翌日の断面です。
水で捏ねた生地はあまり変わらないように見えます。卵黄生地は真ん中の空洞の部分が萎んだためにぎゅっと縮まったように見えますがまだふんわりとしています。
卵白生地は焼きたてよりもぎゅっと縮んでひとまわり小さくなった印象です。

触感の比較です。
水で捏ねたパンは柔らかく指で押すとクラムはしっとりして指あとが付いてしまいます。横から圧力を加えると柔らかい弾力を感じます。美味しさは、一日経って落ち着いた美味しさです。
卵黄生地はややぱさついているような触感ですが、横から圧力を加えると一番柔らかくシュワシュワとした感じです。口溶けもまだいいですし、美味しく食べられます。とにかく香りがいいです。

卵白生地は目玉焼きの卵白のような匂いがします。クラムはかなり硬くなっており、指で押しても凹みません。表面を指で触るとポロポロとクラムが散らかるほど乾燥しています。

総評と考察

卵黄・卵白ともにパンの焼き色を良くし、香りにも影響があります。
香りは卵黄はコクがありますが、卵白は目玉焼きのような香りを感じます。

卵黄はパン生地を柔らかく膨らみやすくしますが、多すぎると膨らみすぎる原因に。
逆に卵白は多すぎると捏ねにくくなるので捏ね不足の原因になるかもしれません。

卵白のタンパク質は焼くと硬くなる性質がありパン生地の骨格を強くするので適量ならば腰折れや萎まないパンになりそうです。多すぎると今回のように硬くなります。

卵白をあえて多めに配合し、あえてパサっとした食感にしてフレンチトーストやパンプディング、スープに浸して食べるなどシーンに合わせた食感のパンが作れそうです。
卵黄だけ加える配合は、生地を柔らかくし膨らみがよくなり卵のコクを感じ、全卵の配合はパンの骨格形成や腰折防止、焼き色をよくする効果がありそうです。

パン屋さんなどでは全卵や加糖卵黄という砂糖が加えられた卵黄を使用することが多いですが、逆にあえて卵白だけを配合することがないのは時間が経ってもパサつきにくく美味しく食べられるようにではないでしょうか。

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まとめ

今回焼いてみた結果だけをみると卵白だけではネガティブな印象ですが、卵はパン生地を狙った食感や香り、質感にコントロールできる食材だということがわかりました。

今回の材料を全て合わせて作ると150gの粉量に対して全卵1個の配合になります。今回の結果を踏まえるとよく膨らむパンになるのか?それとも硬くなってしまうのか?ちょっと想像がつきませんね。

そこで次回は粉に対して全卵をどの程度配合するとパン生地に影響するのか?どのくらいまで入れてもいいのか?実際に焼いてみて比較したいと思います。
※今回の配合は美味しいパンを焼くためではなく、わかりやすく比較するために極端な配合で焼いた結果です。卵は適量配合することで美味しいパンになりますので、ぜひレシピに沿って配合してみてください。

卵黄だけを配合したレシピ

全卵を配合したレシピ

卵を配合しないレシピ

コラム執筆:けいちょんさん

けいちょんさん
けいちょんさん

イーストだけでなく数種類の自家製酵母を使い、完全独学ながらお家で作れる「簡単だけど本当に美味しい家族が喜ぶパン」を日々研究中です。

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