お米と麹で作る、自家製酵母パンの楽しみ方

基本・初心者

こんにちは。富澤商店にてレシピ著者をしておりますマスダアイミです。
おうちでパンを焼くおうちベーカーさんにとって、「自家製酵母でパンを焼く」ことは憧れ!いつかトライしてみたい…!そう思う方は少なくないのではないでしょうか?

自家製酵母とは「自家培養した発酵種」のこと。市販のパン酵母は使わずに、自分で酵母培養しそれをパンに使っていきます。

本来、パンは焼く前の生地を放置していたら…偶然にも膨らんで美味しいものが焼けた!という大昔の人の体験から生まれたもの。ある意味原点回帰した製法とも言えます。
今回は自家製酵母についてのお話と、私がおすすめする「お米の酵母」の起こし方のポイントについて説明していきたいと思います。

自家製酵母とは?

酵母菌は目には見えないですが至るところに沢山いて、植物や樹液、野菜や果物の表面、空気中など…自然界のあらゆる所に生息しています。

酵母菌といっても種類は1つではなく、たくさんの種類がいます。私達はそこからパン酵母だったり、ビール酵母だったり清酒酵母だったり…特定の食品を作るのに有益な酵母を採取し、純粋培養して利用しています。インスタントドライイースト等はその例で、パン作りに適した酵母を選別して培養したのちに使いやすいよう加工され製品化したものです。

酵母はそこらへんに付いていたり、浮いていたりするという事なので、自宅の環境で培養することも可能です。自身で培養した種のことを一般的に「自家製酵母」や「発酵種」と呼んでいます。
酵母は特に花や果実などに多く生息しているので、フルーツや干しブドウ等を使っての酵母起こしは比較的成功しやすく、今回お伝えするお米でも起こせますし、小麦やライ麦から起こす種もあります。

ちなみに自家製酵母という言葉が親しみやすく、多く使われているのでこのコラムでもその名称を使用していますが、パン業界では「発酵種」という言い方に統一しています。
製品化されたパン酵母と違い不安定さもあり、失敗リスクもつきものですが、種から自分で育てることで唯一無二のパンが焼けるメリットがあり、生き物を育てる楽しさも味わえる。ロマンを感じる方も多いはずです。

自家製酵母パンの特徴と、心得ておきたいこと

市販のイーストを使用したパンと比べて、自家製酵母のパンはどのような特徴があるのでしょうか?
自家製酵母パンの特徴として…

  • 発酵時間が長時間になる
  • 複雑な香り、風味が添加される
  • パンが日持ちするようになる
  • 唯一無二の味が出せる

発酵時間が長くなる理由としては、市販のイーストはパンを膨らませる力に特化した酵母のみを集めて純粋培養したものに対し、自家製酵母は自然状態で培養するものなので、多種多様の菌が存在している状態です。
パンを膨らませるのに必要な酵母数が市販のイーストより圧倒的に少ない分、発酵に時間がかかります。

ただしその多種多様な菌が存在している状態が、パンに複雑な風味や香りを作り出す素になります。
種の状態もそれぞれ起こす環境により違ってくるので、唯一無二の特徴のあるパンが焼けるようになります。時間がかかることで生地が熟成され、生地がしっかりと水分を保持するのでパサつかず老化の遅いパンが焼けます。

このように上手く焼けるとメリットが多い自家製酵母パンなのですが、ひとつ心得て欲しいことがあります。それは「パンが焼けない」可能性が少なからずあるということです。
安定した発酵力がある市販のパン酵母と違い、自家培養の種は素材や環境に左右される自然任せな面がある為、パンを焼く以前の問題として…酵母起こしが成功しない場合もあります。
酵母起こしが成功しないとそもそもパンを膨らませることが出来ません。必ずしも全員が成功する訳ではないという事です。

私は自身のレッスンにて自家製酵母パンを教えていますが、生徒さんの中でもすんなり酵母起こしをクリアする方と、どうしても起きない…そんな方も実際に居ます。
ただしそれは環境のせいや何か別の理由に起因することなので、失敗しても落ち込まずに仕方ない!と思う意識付けが大事です。

失敗率を下げた自家製酵母、お米の酵母を考えました

お米の酵母

失敗リスクがつきもの…ということでハードルが高い自家製酵母なのですが、なんとかそこを打開できないか?失敗率を下げられないか?と考えたのが「お米の酵母」です。

この種は日本発の発酵種、酒種を倣ったものになります。
酒種とは、あんぱんで有名な木村屋総本店さんが発祥で、日本酒の作り方を参考に生まれた種。
お米(米と米麹)を使って酵母を培養します。発酵力が強く日本人好みのパンが焼けるのが特徴です。

完成するのに約4日間を要しますが、一度出来上がってしまえば約1週間ごとにお世話すればOK。お世話するごとに発酵力が安定してくる特徴があります。
この酵母でパンを焼くと、以下の特徴が表れます。

  • 薄皮のパンになる
  • しっとりさがアップする
  • 焼き色が濃くなり、風味アップ
  • 消化に良いパンになる
お米の酵母で焼いたパン

日本人はお米を昔から食べてきた民族なので、お米の酵母が与える効果はまさに日本人好み。
麹の効果で消化に良いパンになるというメリットも嬉しいですね。
レシピと併せて見て欲しい、お米の酵母の起こし方の基本的なポイントをお伝えしていきたいと思います。

ポイント解説【お米の酵母起こし】

お米の酵母起こしの材料

お米の酵母の材料は、炊いたご飯・米麹・水。
一番初めだけ、ひとつまみのイーストを入れます。

ひとつまみのイーストを入れる

通常、自家製酵母起こしは環境にいる酵母や、材料についている酵母を利用して育てますが、
そこが各家庭により安定しない部分ではあるので、ほんの少しのイーストを入れ確実に酵母菌がいる環境を作っていきます。
その後、4回かけ継ぎながら育てます。かけ継ぐことで弱い菌は淘汰され、強いものだけが残っていくので発酵力がぐんと上がっていく…そんな仕組みです。

お米の酵母

【酵母起こしで注意したいこと】

①容器・道具は清潔にする

容器は清潔に

まず大前提として、使う容器に雑菌がついていない状態にしましょう。煮沸消毒・アルコール消毒等をして、容器や混ぜるスプーンは綺麗にしておきます。

②イーストはほんの微量でOK。入れすぎ注意!

一番初めに入れるイーストはほんの少しで大丈夫。安定させたいからといって入れすぎると逆効果です。
この酵母起こしは、種の中のバランスが大事。麹が酵母のエサを用意して、酵母はそれをもとに増殖する…という流れで育てていく酵母なので、初めから大量のイーストが入るとそのバランスが崩れてしまい、その結果弱い種になってしまいます。

③置いておく場所の温度に気をつける

あんまり高温の場所に置いておくと種内のバランスが崩れやすく、かつ雑菌汚染も起きやすくなります。人が快適に過ごせる温度…だいたい25℃くらいの場所に置いておくと良いです。

➃たまに酸素を入れてあげましょう

混ぜて酸素を供給する

酵母は酸素がある環境だと元気に増えます。
たまに容器の蓋を開けて混ぜてあげることで、酸素を供給して増殖を促します。

➄完成の見極めは発泡状態や香り、味を見て判断しましょう。

見極めは時間ではなく、状態判断でレシピの時間はあくまで目安です。
甘酒のような味・香りから、すっきりした味・香りに変わっていきます。
甘さがあるうちはまだ種が若いので、甘さがなくなるまで置いておきます。

完成した種は冷蔵保存して、だいたい7日~10日毎にかけ継いであげることで発酵力を維持したまま
保管することが出来ます。

かけ継いでいく

かけ継ぐごとに強くなる傾向があるので、発酵力が心配な場合は短期間でかけ継いであげると良いです。

おすすめ商品

お米の酵母で食パンを焼こう

この酵母でパンを仕込んでみましょう!使い方は、出来上がった酵母液を仕込み水の一部として生地に入れていきます。
シンプルなパンに使うと味の違いが分かりやすくおすすめです。
今回は作りやすく、毎日に取り入れやすいミニ食パンの作り方をご紹介します。

お米の酵母で作るパウンド食パン

お米の酵母を使った生地は、管理に注意点すべきポイントがあります。
〇生地温度を高温にしない(30℃以上~NG)
〇一次発酵をしっかりとる

を意識すると良いです。

お米の酵母は麹が入った酵母です。麹には生地を緩める効果があります。
生地を30℃以上にすると麹の酵素のはたらきが活発になり生地がダレやすくなります。温度が上がりすぎないよう、暑い季節は水の温度を低温にして仕込むなど工夫してあげると良いです。

そしてこれはお米の酵母に限らず言える事ですが、
ふっくらと仕上げたいパンは一次発酵をしっかり取ることもポイントです。
先程お話したように、自家製酵母は市販のイースト等と違って酵母数の量に違いがあるので、発酵をしっかりとることで生地の中の酵母の数を増やし、焼成時ふっくら膨らみやすくなります。

一次発酵をしっかりとる

自家製酵母パンを育てていく楽しさを生活に取り入れて

自家製酵母のパンは発酵時間が長くかかります。
但し発酵時間を上手く生活の中に組み込んであげると、負担なくパンを作ることが出来ます。
例えば、この食パンレシピでは一次発酵は8時間程かかるのですが、朝生地を捏ねると夕方に発酵完了となるので、その間に外出したり家事をこなしたりする事が出来ます。
朝捏ねてから、仕事に行って帰宅したらパンを焼く…という生活スタイルの方も居ます。
また、夜に生地を捏ねて、寝ている時間を発酵時間に充てれば、翌日の朝は焼きたてパンを食べる事も可能です。

発酵時間が長いことはデメリットではなく、むしろ忙しい方にこそぴったりです。

私は小さな子供が居るのですが、ここ最近は子供の都合でまとまった時間が取りづらいので、ゆっくり発酵させるパンの製法が今の生活には合っています。
焼きあがったパンは香りから違いが分かる筈です…!

自家製酵母パン

生地に甘味、旨味が加わりそのままでも美味しく、しっとりさが長続き。きっと病みつきになるかと思います。

種から自分で育ててパンを焼く。
時短、簡単、効率よく…が主流の時代に逆行していますが、育てていく過程を追える楽しさがあります。
ぷくぷくと育つ種に愛しさすら覚えるはず。時間をかけたからこそ、パンが焼きあがった時には感動ものです。

自家製酵母パン、一緒に始めてみましょう!

▼合わせてチェック!

白神こだま酵母とは?イーストとの違いや魅力をお伝え
作りたいパンに合う天然酵母が見つかる!天然酵母 徹底比較

コラム執筆:マスダ アイミさん

マスダ アイミさん
マスダ アイミさん

湘南・茅ヶ崎にてパン教室「OVEN 暮らしのパン教室」主宰。

『お家のオーブンから幸せを』をモットーに、
国産小麦や手に入れやすい範囲でのこだわり素材を使い、
作りやすいのに美味しい!と思えるパン作りを提案されています。

天然酵母を使ったレシピを中心としてパンや酵母菓子など、
特に、白神こだま酵母の良さや魅力を提案されています。

2024年には麹や発酵食のスペシャリストである「薬膳麹士」を取得され、同年10月より、『パンと麹をメインに、発酵をふだんの暮らしに取り入れる!』をテーマとした オンライン教室「発酵 暮らしごと」を開催されています。

error:Content is protected !!