こんにちは! 熊谷裕子です。
今回はお菓子作りの幅がぐんと広がる「カスタードクリーム」について、ちょっと詳しくご紹介します。
皆さんは「カスタードのお菓子」ときいて、どんなお菓子を想像しますか。
シュークリーム?プリン?それともエクレア?
きっとどれもなじみのあるいつものおやつ、だったりしませんか。大人も子供も、みーんなカスタード味が大好き。卵と牛乳からできる、やさしくて素直な風味と食感は、やはり日本人好みなのでしょう。街のパティスリーにもたくさんのカスタードのお菓子が並んでいますよね。
今回は「本当においしいカスタード」をここでもう一度再確認し、さらにレベルアップしてみましょう。
カスタードクリームとは?
カスタードクリームは、フランス語で「クレーム・パティシエール Crème Pâtissière(菓子屋のクリーム)」と呼ばれ、もっとも基本的、かつ重要なクリーム。ですからどこのパティスリーでも、新人パティシエはまずその店のカスタードクリームをマスターすることから始まります。
ですが、基本のクリームなのに「焦げてしまいそうで心配」「どこまで炊けば良いのかわからない」と、カスタード作りが苦手に感じる方も多いようです。
カスタードクリーム(クレーム・パティシエール)のベースとなるのは、卵黄と牛乳、砂糖、薄力粉だけ。これらを加熱することでクリーム状になります。
多くの場合、それにバターを加えて濃厚さを出したり、バニラや洋酒でフレーバーづけをします。シンプルな材料だけにその質と作り方で大きく差が出てしまうので、上手に正しく炊くことが大切です。
カスタードクリームの用途と特徴は?
そのままでも、または他の素材と合わせてさまざまなお菓子の基本クリームとして使われます。
一般的にはカスタードクリームそのものは油分が少なく淡白なので、ホイップした生クリームと合わせたり、バターと合わせてホイップしたりと他の素材と組み合わせてクリームを仕上げることもよくあります。またプレーンな味わいなので、チョコレートやカフェ、リキュール、フルーツのペーストなどを混ぜ込むだけで簡単にフレーバーをつけられるので、バリエーションが広げやすいクリームともいえます。変わったところではクレーム・ダマンド(アーモンドクリーム)と混ぜて焼き込むこともあります。
カスタードクリームとカスタードソースとの違いは?
卵黄、砂糖、牛乳からできる「カスタードソース(フランス語ではクレーム・アングレーズまたはソース・アングレーズ)」と、「カスタードクリーム」の違いは何でしょう。
材料も味わいもそっくりですが、一番の違いは小麦粉やコーンスターチなどの粉類が入らないため、クリーム状にはならず、とろーりとしたソース状になります。
「カスタードソース」もいろいろなお菓子のベースとなるソースで、このままデザートのソースにしたり、ゼラチン・生クリームなどを加えてババロアにしたり、バタークリーム、アイスクリームなどのベースとして使われます。
そしてもう一つの違いは作るときの火加減です。カスタードソースには粉類が入っていないため、強火にかけてしまうとたちまち卵黄が固まり、分離してしまいます。カスタードクリームとは対照的に、「弱火でゆっくり」炊くのがカスタードソースのポイントです。
カスタードクリームの基本材料は?
卵黄
濃厚でまったりとした風味にするのはやはり卵黄。卵白加えて作るレシピもありますが、分離しやすく、口当たりのなめらかなカスタードクリームを作るときは卵黄のみ使用するのがおすすめです。
牛乳
牛乳は加工乳などではなく、「牛乳」という表示のものがおすすめ。新鮮なものを使いましょう。
砂糖
カスタードクリームに甘みをつける砂糖は上白糖またはグラニュー糖を使います。甘さを控えめににしたいときも、砂糖を減らしすぎるとなめらかな食感に炊き上げるのは難しくなるので、減らしすぎないように。
薄力粉
カスタードクリームを加熱して作るときに、薄力粉に熱が入ることでクリームの「とろみ」が付きます。粉が少なければゆるく柔らかく、多ければブリッと弾力のある、固めのカスタードクリームになります。
バニラビーンズ(バニラさや)
カスタードクリームに風味をつけるために加えます。他のバニラ製品でも使えます(後述)。
あると便利なおすすめの道具
片手鍋
強火~中火で炊くので、火の当たりがやわらかい厚手の片手鍋がベスト。薄手のアルミ鍋などは焦げやすいので不向きです。プロは熱伝導のよい銅製の鍋で作りますが、家庭では作りやすく焦がしにくい、フッ素加工してあるものを使うと失敗がありません。また底の角に丸みがある形のほうがゴムべらでこそげやすく、炊きやすいでしょう。
耐熱性ゴムべら
カスタードクリームを少量で炊くときは、耐熱性のゴムべらで混ぜながら加熱します。プロのパティシエが泡立て器で炊くこともありますが、家庭で少量のクリームを炊くときに泡立て器を使うと、どうしても混ぜすぎてしまいがち。適度にしなって鍋底をこそげやすい、ゴムべらがベストです。
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軍手
強火で炊いていると、混ぜている手が熱くなることがあります。熱にデリケートな方は軍手を着けるとよいです。
カスタードクリーム作りのポイントは?
ポイントは「強めの火加減で一気に、混ぜすぎず!」です。焦げるのでは・・・と弱火でゆっくりと炊くと、粘りのもととなる粉のグルテンが出てしまい、のりっぽく、口に残るおいしくないクリームになってしまいます。特に家庭で作る分量は少ないので、余計に混ぜすぎてしまいがち。
もうひとつのポイントは、クリーム状になっても火を止めずに炊き続け、粉けが切れるまでしっかりと火を通し、粉っぽさを残さないように炊き上げること。短時間で一気に、といっても加熱が足りないとおいしいクリームにはなりません。
目指すのは、「さっくり、歯切れのよいクリーム」。まずは基本をしっかり確認、マスターしましょう。
パティシエ直伝・おすすめの本格レシピで
カスタードクリームを作ってみましょう
レンジを使って手軽に作ったり、全卵を使用するレシピもありますが、やはり濃厚でなめらかクリーミーなカスタードクリームを作るなら、パティスリーで作られているような卵黄、牛乳、砂糖、粉で作るレシピがおすすめです。
材料(できあがり約280g)
- 牛乳 250g
- 砂糖 60g
- バニラビーンズ 2cm程度
- 卵黄 2個分
- 薄力粉 16g
*薄力粉はふるっておく
- 片手鍋に牛乳、砂糖半分を入れる。
バニラビーンズはナイフの先でさやを割き、粒々をしごき出しさやごと牛乳の鍋に入れて火にかける。最初にゴムべらで混ぜて砂糖を溶かすようにし、一度沸騰したら火を止める。ここでしっかりと沸騰させることで、この後短時間で一気にクリームを炊き上げることにつながる。吹きこぼれに注意し、沸いたらバニラのさやはとりのぞいておく。 - 1と同時並行で、溶いた卵黄と残りの砂糖を泡立て器でよく混ぜる。溶いた卵黄に砂糖をのせてそのまま放置するとダマになってしまうので、合わせたらすぐに混ぜ合わせる。少しとろりとしてくるまでよく混ぜる。
- ふるった薄力粉を合わせ、泡立て器で混ぜ合わせる。2とは対照的に、混ぜすぎないようにする。粉のダマを残してはいけないが、粉っぽさが残らない程度で混ぜるのをやめないと、グルテンが出てのりっぽくなる。
- 1の沸騰した牛乳の半量程度を、混ぜながら3の卵黄ミックスに加えてのばす。沸騰した牛乳にそのまま卵黄ミックスを加えると、すぐに熱で固まり、ダマができてしまう。そこで牛乳の一部でいったん薄めて伸ばし、全体を合わせることでダマにならないようにしている。
- 耐熱性のゴムべらに持ちかえ、4をすべて牛乳の鍋に戻す。全体を混ぜ、均一にする。熱い牛乳が卵黄、粉に加わるので、加熱する前からすでにとろみがうっすらつき始める。
- 強~中火にかけ、ゴムべらでぐるぐると全体を混ぜながら加熱し始める。
↓熱が入り、この段階で急に濃度が出てくる。鍋底からクリーム状に固まってくるので、上澄みだけでなく、底からこそげるように手早くぐるぐるよく混ぜる。ここが一番焦げやすく、ダマになりやすいので気をつける。よく混ぜるのは、最初のこの段階だけ。 - 鍋のふちから気泡が湧き出てくるようになり、全体がクリーム状になったら、ゆっくりと焦げない程度にかき寄せるように混ぜながら炊き続ける。*IH器具の場合は中心から沸騰してくることがあります。クリーム状になったからと、ここで加熱を止めないように。粉に火が入りきっていないため、粉っぽさが残ってしまう。しっかりと火を入れ、「粉けを切る」ことが大切。これ以降は焦げにくくなるため、底からかき寄せるようにゆっくり混ぜればよい。ずっとぐるぐる全開で混ぜ続けると、粘りが出てしまう。
- さらに炊き続けると、ある時点で急にコシが切れ、さらっと軽くなったら火を止める。粉まで火がしっかりと入ると、コシが切れて混ぜる手が軽くなる。この頃には鍋のふちからだけでなく、真ん中からもボコッ、ボコッ、と大きな気泡が湧き出てくるようになっている。最初からここまで火加減はかえず、強火で炊き続ける。
- 清潔な大きめのボウルにあける。カスタードクリームは非常にいたみやすいクリーム。雑菌が発生する温度帯をなるべく早く通過させるように、表面積を大きくして急速にさますとよい。バットでもよいが、ボウルだとその後の作業もしやすい。
- ラップをぴったりと表面に貼りつける。ボウルごと氷水につけ、ラップの上に保冷材をのせて冷ます。 そのまま放置すると、表面が乾いて膜ができ、このあと混ぜたときにダマの原因になる。またボウルにラップをすると、水滴が落ち、水っぽいクリームになってしまうので、直接貼り付けるように。上下から冷やし、なるべく早く冷ます。
- ラップをはがし、ゴムべらで切るように軽く混ぜる。バニラエッセンスやリキュールで香りづけするときもここで加える。ラップはさめるときれいにはがれる。炊き上がりはやわらかかったクリームも、冷やされて締まった状態になる。ここで泡立て器などでぐるぐる混ぜすぎてしまうと、やはり粘りが出たり、ゆるゆるのクリームになってしまう。必ずゴムべらで切り混ぜるようにしてほぐす。
カスタードクリームの失敗例
失敗例1:ダマダマができた!
なめらかなはずのカスタードクリームなのに、ダマができてザラザラ…
原因は「粉をふるって入れていない」「プロセスで粉けが残っているまま沸かした牛乳を加えた(粉がしっかり混ざっていなかった)」「炊き始めの混ぜ方が足りない(混ぜ方が遅い)、鍋底から全体を混ぜていない」です。特に炊き始めはダマができやすく、焦げ付きやすいところ。鍋底をぐるぐるとこするようにし、たまに鍋の側面もこそげとるようにして混ぜましょう。クリーム状になり、ブクブクとし始めるまでのほんの数十秒なので頑張って!もしそれでも焦げたりダマができそうなときは、ほんの少し火加減を弱めましょう。
失敗例2:ざらっとして分離してきた!
加熱し始めてもなかなかとろみがつかず、そのまま加熱しているとざらつきが出始め、最後は分離してしまった・・・! そんな貴方、薄力粉は分量通り入れましたか? 薄力粉はつなぎの役目をしており、クリームのとろみをつけてくれます。あまりにも粉を減らしてしまったり、入れ忘れたりすると加熱途中で一気に分離してしまいますのので、薄力粉は分量通り入れましょう。
失敗例3:できあがったクリームがプリプリのかたまり状・・・?
ボウルにあけてよくカスタードクリームが冷えると、ひと固まりになって固い・・・! 炊きあがりはクリームだったのに。
でも大丈夫です。カスタードクリームは冷えるとプリッと固まりますが、それで正解です。
冷えたところでゴムベラでほぐすように全体を混ぜていくと、(炊きあがりほどではありませんが)やわらかく戻っていきます。むしろ泡だて器でぐるぐると混ぜてなめらかにしてしまうと、コシが切れてゆるくなり、やわらかすぎてダレてしまったり、また粘りが出てしまうことも。
それでももっとやわらかいクリームに仕上げたい!というときは、粉をほんの少し減らしてみましょう。
またあまり長い間炊き続けていると煮詰まっていき、固い仕上がりになることもあるので、コシが切れてさらっとしたらすぐに火を止めてくださいね。
↓
裏漉し(パッセ)について
プロのお菓子屋さんでは、レシピの工程11で混ぜるかわりに漉し器で裏漉し(パッセ)します。
異物混入を防いだり、卵の本当に細かいダマを取り除くためです。こだわりたい、または炊き上がりにダマが目立ってできていたら、裏ごしするとよいでしょう。
カスタードクリーム作りでよくあるQ&A
Q.カスタードクリームは保存できる?
カスタードクリームは一晩おくと、粉のグルテンの粘りが弱まり、さっくりと歯切れのよいクリームになります。とはいっても卵と牛乳から作るため、非常にいたみやすいクリームです。保存はなるべくせず、できれば作った日か次の日までにはいただきたいもの。乾燥したり匂いがつかないよう、直接ラップを貼り付けるようにし、さらに器の上からもラップして冷蔵庫で保存してください。
Q.カスタードクリームは冷凍できる?
冷凍すると解凍時に離水し、水っぽくざらついてしまうため、避けてください。
ただしクレーム・フランジパーヌなど焼いてしまうクリームに混ぜるときは、冷凍解凍したものでも問題ありません。
Q.バニラビーンズ(バニラさや)以外のバニラ製品も使える?
天然のバニラさやからこそげ出したバニラビーンズを使うと、より自然で香り豊かに。
少し高価ですが、高級感がアップします。使うときは、基本分量に対し2cmくらいで十分。ナイフの先でさやを割き、粒々をしごき出します。さやとともに牛乳の鍋に入れ、一緒に沸騰させて香りを移します。沸騰したら火を止め、さやだけ取り除いて、後はプロセスどおりに炊いていきます。
注意したいのは「ビーンズは加熱しないと香りが出ない」ということ。
できあがったカスタードクリームビーンズを入れても風味が出ないのです。しっかり牛乳で煮出して香りを移しましょう(取り出したさやは洗って乾燥させ、バニラシュガーや細かく粉砕してお菓子作りに役立てられます)。
このさやからビーンズをこそげ出す手間を省いたのがバニラペースト。
トロッとした溶液にビーンズがそのまま入っているので、ナイフの先などでほんの少し取り出し、牛乳の鍋に最初から加えて使います。
もっと経済的に、手軽に香り付けたいときはバニラエッセンスやバニラエキストラクトを。
ただしこれらは熱に弱いので、炊きあがって冷めたところで微量加えるようにします。
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オーガニックバニラビーンズペースト / 65g
TOMIZAWA バニラエッセンス / 30ml
ドルチェ バニラエキストラクト40 / 30ml
Q.薄力粉のかわりにコーンスターチやプードル・ア・クレームを使うと?
薄力粉を使用した場合、できあがりはもっちりとし、少しコシがある状態で透明感はあまりありませんが、適度な固さと粘度があるカスタードクリームになります。
薄力粉のかわりにコーンスターチを使うと、でんぷんが多く含まれているため加熱したとき固まり始めるのが早く、炊く時間も短くなります。できあがりのクリームのコシは弱く、ふるふるネチッとしていて透明感があります。薄力粉使用に比べて軽い食感になりますが、ねばっぽい食感と保形性の弱さが気になるときは「薄力粉とコーンスターチ半々」にするのがおすすめです。
プロのお菓子屋さんでよく使われている「プードル・ア・クレーム」はでんぷんの量が少ないので、なめらかな食感に仕上がります。またコーンスターチの他に香料や黄色の色素が入っているので、おいしそうな色合いや風味が手軽につけられます。
Q.無塩バターを加えてもっとリッチにしたい!
炊き上がりに無塩バターひとかけを溶かし込むと、よりリッチで濃厚なクリームになります。
一緒に炊いてしまうと風味が飛んでしまうので、炊き上がって火を止めてから、余熱で溶かします。基本分量に対して20~30g加えるとよいでしょう。
カスタードクリーム基本編まとめ
いかがでしたか?ポイントを押さえればカスタードクリームは難しくありませんね。
さらにこのカスタードクリームをいろいろなお菓子に使ったり、バリエーションをつけるテクニックを次回「応用編」でご紹介いたします。
カスタードを使ったNEWレシピもありますので、お楽しみに!
コラム執筆:熊谷裕子(くまがいゆうこ)先生
公式Webサイト
この著者のレシピ一覧
葉山「サンルイ島」横浜「レジオン」世田谷「ル・パティシェ・タカギ」を経て、神奈川・中央林間でお菓子教室「クレーヴスイーツキッチン」主催。
文京区 にて「アトリエルカド」 も開講。著作に「デコレーションテクニック」「チョコレート菓子のテクニック」など多数。