こんにちは! お菓子教室主催の熊谷裕子です。
今回はガナッシュに欠かせない「チョコレートの乳化」について詳しくご紹介します。
「乳化」って科学の話っぽくて少し難しいと思われるかもしれませんが(実はお菓子作りって、科学なのです!)、イメージだけでも持っていると失敗もぐっと減り、成功率が高まります。「乳化」や「分離」を理解して上手にガナッシュを作ってみましょう。
チョコレートの「乳化」と「分離」
いきなり乳化、と言われても、少し難しいですね。そこでまず先に乳化の反対である「分離」のことからです。
「チョコレートに生クリームを加えてガナッシュを作ったら分離してしまった」。お菓子作り経験者なら、こんな失敗一度はやってしまったことがありませんか。そもそもガナッシュ作りチョコレート(油分)に、生クリーム(水分)を加え混ぜる作業。これが上手にいかないとうまく混ざり合わず、油分が表面に浮き出でザラザラとした「分離」状態になってしまい、冷え固まった後も食感がボソボソしたり、油っぽく舌触りの悪い出来上がりの原因となるのです。
乳化とは?
その反対に油分の多い材料であるチョコレートと、水分の多い材料である生クリームを上手に混ぜ、きれいに混ざり合っている状態を「乳化」といいます。そもそも油と水は混ざりにくいものですが、生クリームに含まれる乳脂肪分に乳化を促す作用(乳化作用)があるので、温度やプロセスなどをきちんと守って作ればしっかり安定した乳化状態のとなり、なめらかな食感と濃厚なチョコレートの味わいそのままを堪能できるガナッシュとなります。
ガナッシュの失敗しない作り方などはこちらでご紹介しています
ガナッシュが分離する原因は?
ガナッシュ作りはとてもシンプル。でもたまに失敗して分離してしまうのは、どうしてでしょう。大きくは「配合、温度、混ぜ足りない」の3つが考えられます。
1.レシピ(配合)を変更した
「レシピ通りに作ったはずなのに失敗してしまった」。そんな時は、こちらをチェックしてみましょう。
使用したチョコレートのカカオ分はレシピ通りのものですか?
ミルクチョコよりビターチョコが好きだから、うちにあったからと、レシピと違うカカオ分のものを使っていませんか。
生クリームの脂肪分はレシピ通りのものですか?
「乳脂肪分36%」とレシピにあったら、それに近いものを使っていますか。濃厚なのが好きだから47%のものを使っていた・・だったりしませんか。
もっと濃厚な味にしたいので、チョコレートの量を増やしてみた・・など分量をかえていませんか。
など、意外とレシピをアレンジしていたりします。ガナッシュはチョコレートの脂肪分(カカオバターのこと・チョコレートのカカオ分によって変わる)と、生クリームの乳脂肪分、そして水分とのバランスをとってレシピが組まれています。「これくらい変えても大丈夫だろう」は禁物です。必ず指定のチョコレート、カカオ分、生クリームの脂肪分を使い、分量も守ってください。
2.乳化させるときの温度が低い
チョコレートは油分を多く含むので、生クリームを加えて混ぜ合わせるときにある程度温度を上げておく(ガナッシュ全体の温度が35度以上)ことでチョコレートが溶け、チョコレートに含まれる脂肪球が均等に生クリームの中に分散されることで安定した状態に混ざり合い、きれいに乳化したガナッシュとなります。この混ぜるときの温度が低いと脂肪球が均等に分散せず(カカオバター分が固まり始める)、結果分離した状態になってしまうのです。
生クリームの温めが足りず、全体の温度が低いとチョコレートが溶け切らないだけでなく、分離の原因に。また一度乳化したガナッシュも温度が下がってからぐるぐる泡だて器で混ぜたりするとやはり分離するので注意しましょう。
3.混ぜ足りない
温めた生クリームとチョコレートを混ぜるとき、最初は生クリーム(水分)とチョコレート(油分)はまだ混ざりきっていません。最初は「分離している」状態から始まります。ここから空気を入れないように攪拌することで乳化するわけですから、単純に混ぜ足りないと乳化しきらず、分離したままの状態に。
さらにしっかり混ぜ続ければ、ちゃんと乳化し、艶のあるなめらかで粘度のあるガナッシュになります。混ぜすぎたら分離するかも、、ではなく、しっかり混ぜましょう!
分離したガナッシュはリカバーできる?
一度分離したガナッシュは、捨てるしかない?
それももったいないのですね。ここではリカバーする方法をご紹介します。
A. 簡単な方法
温めた生クリーム小匙2杯程度を分離したガナッシュに加え、泡立て機でぐるぐるよく混ぜる。それでも乳化しなければまた小匙1~2ずつ乳化するまで加える。
※ただしこの方法は出来上がりのガナッシュが少し柔らかめになる。
B. 元のレシピ通りの配合でリカバーする方法
- もとのガナッシュ配合の生クリームの分量の10%を40度位に温め、分離したガナッシュに少量加える。
- よく混ぜ、さらに数回に分けて残りの生クリームを加え、その都度泡立てないようにぐるぐるとよく混ぜて乳化させる。
※それでも乳化しない場合はさらに10%の生クリームを温めて加え混ぜるようにする。
※この段階では元のレシピより生クリームの割合が多く、ゆるいガナッシュになっている。生チョコなどの場合、冷やし固めても柔らかく、カットしにくいことも。 - もとのガナッシュ配合のチョコレートの分量の10%(さらに生クリームを足した場合は20%)を40度位に温め、2.に2~3回に分けて加え、その都度よく混ぜる。
※これで元のレシピと同じ割合に。バターやリキュールが入るレシピの場合は同様に10%ずつ最後に加える。
このようにリカバー方法はありますが、少し複雑なのと、上手に温度調節したり混ぜたりと少し手間もかかります。また一度分離したものをリカバーしたものは最初から成功したガナッシュと比べると若干不安定な状態にあるので、早めに食べてしまうようにしましょう。
私個人的には「失敗したらリカバーすれば・・」より最初からきちんと温度調節とプロセスをふみ、「失敗しないようにガナッシュを作る」ほうが簡単でおすすめです!
ガナッシュを使ったNewレシピをご紹介
どのチョコレート菓子もまずは美味しいガナッシュ作りがポイント。しっかり基本をおさえ、なめらかで口溶けの良いガナッシュを作りましょう。
今回はガナッシュをサンドしたクッキーやケーキにアレンジした新作レシピをご紹介します。
キャラメルガナッシュのクッキーサンド
さくさくカカオサブレにねっちりと香ばしいキャラメルガナッシュをサンド。ビターなチョコレートでコーティングして仕上げます。水分の少ないガナッシュなのでサブレに水分が移りにくく、サクサクの食感を味わえます。ギフトにもぴったりです。
グランマルニエ香る 大人のガナッシュのケーキ
溶かしたチョコレートをたっぷり混ぜ込んだしっとり生地をとよ型で焼き、なめらかな濃厚ガナッシュを2段重ねに。さらに全体にもガナッシュでつややかにコーティングします。オレンジフレーバーのお酒・グランマルニエがほんのり香る、大人のチョコレートケーキです。
最後に
いかがでしたか。今まで「乳化」を意識せずにチョコレート菓子を作っていて、成功したり、時には失敗したりだったかもしれませんが、乳化についてなんとなくでも理解するだけでずっと成功率が高まると思います。乳化のコツを知ったうえで、ぜひいろいろなチョコレート菓子にチャレンジしてみてくださいね。
コラム執筆:熊谷裕子(くまがいゆうこ)先生
葉山「サンルイ島」横浜「レジオン」世田谷「ル・パティシェ・タカギ」を経て、神奈川・中央林間でお菓子教室「クレーヴスイーツキッチン」主催。 文京区 にて「アトリエルカド」 も開講。著作に「デコレーションテクニック」「チョコレート菓子のテクニック」など多数。