こんにちは!熊谷裕子です。
今回はわたしおすすめ!の「トロぺジェンヌ」をご紹介します。
「トロぺジェンヌ(またはタルト・トロぺジェンヌ)」は、南フランスのサン・トロぺの銘菓。女優ブリジット・バルドーがお気に入りだったお菓子として知られています。このお菓子の名前は、日本でも一部のパティスリーやコンビニさんが商品化し、少しずつ聞かれるようになってきました。特に2021年に流行したイタリア菓子「マリトッツォ」に見た目も似ているので、ブームの兆しあり、とも言われています。
「トロぺジェンヌ」とは?
マリトッツォはバターたっぷりのやわらかリッチなブリオッシュパンの生地にたっぷりと生クリームをサンドしたお菓子ですが、トロぺジェンヌは少し違います。
ブリオッシュ生地は同じですが、大抵はその上にワッフルシュガー(あられ糖)がふられて焼き上げるので、ふわっとした生地にシャリっとした食感のアクセントが。そしてクリームは生クリームではなく、ベースがカスタードクリームになっています。それもバターを加えてホイップしたクレーム・ムースリーヌ、もしくはさらにホイップした生クリームを合わせるので、ふわっとしたカスタードのやさしい味がブリオッシュにマッチします。
本場では南仏でよく使われる「オレンジーフラワーウォーター(オレンジ花水)」でクリームに香りづけることも。見た目はシンプルで素朴ですが、おいしい要素がそろっていますね。
本場サントロペではひとり分の小さいサイズだけでなく、アントルメ(ホールタイプ)もあり、切り分けていただくそうです。トロぺジェンヌの専門店もあるのだとか!
冷やして食べるとおいしい夏にもおすすめケーキ
トロぺジェンヌはカスタードクリームがたっぷり挟まれますが、生クリームそのものではないので意外にもくどすぎず、シュークリームのようにペロッと食べられてしまうから不思議!
とくに生地にシロップをしみ込ませているタイプ(後述)はよりジューシーで、冷やしていただくと夏にもぴったりなケーキです。
熊谷裕子の「おすすめトロぺジェンヌ」は?
ここで少しわたし熊谷のおすすめのトロぺジェンヌのエピソードを。
私がまだケーキ職人として働いていたころ、2軒目のお店に入ったばかりのお話。その店で初めて「トロぺジェンヌ」という素朴な(地味な!)ケーキに出会いました。
「発酵生地に柑橘風味のシロップを染み込ませ、カスタードクリームをサンドしたもの」と聞き、ちょっと「サバラン」っぽいお菓子かな、と想像しました。
正直あまりサバランが好きでなかった私の曇った表情を読み取った先輩が、「だまされたと思って食べてみて!地味だけどスタッフには一番人気のお菓子よ」と。
食べたときは衝撃でした。似ていると思っていたサバランは、しっかりとした食感の発酵生地にびっしょりとシロップがこれでもかとしみていて、食べるとお酒の香りがツンとするくらい強いラム酒が効き、ほんの少しクリームがのっている・・・というイメージでした。でもそのトロぺジェンヌはソフトでふわっとしたブリオッシュ生地に、ほんのりしっとりと柑橘香る爽やかな風味のシロップがしみ、濃厚すぎず軽すぎない生クリームとバター入りのカスタードが程よくサンドされていました。
まるで高貴なシュークリームのようで、一発でトロぺジェンヌの虜に!
残念ながらそのお店は現在は閉店してしまいましたが、その味に近いものをわたしはたまに自分で再現して楽しんでいます。
ポイントは何といっても「シロップ」。多すぎず、甘すぎず、お酒は強すぎず、が重要です。お店によってはブリオッシュ生地にそのままクリームをサンドしただけのものもありますが、シロップをしませると少しポソっとする発酵生地とマイルドなカスタードをつなぐ役目をします。クリームもカスタードクリームだけでは淡白すぎ、カスタードに生クリームを混ぜるだけでは軽すぎ。そこで少しバターも加えることで程よい固さと濃厚感を出しました。サンドする量もポイントです。
ぜひわたしが出会った感激のトロぺジェンヌ、皆さんもぜひ味わってみてくださいね。
トロぺジェンヌの作り方は?
- まずはブリオッシュ生地を焼きます。粉類に卵やミルクが入るリッチな生地をイースト入りで作り、よく捏ね上げたところにたっぷりのバターを練り込みます。
バターが多い生地はベタついて扱いにくいので、一晩じっくり冷蔵発酵させ、粉のうまみを引き出します。 - 分割してベンチタイムをとり、丸形に成形します。タルトカップやリングにはめてもう一度発酵させます。
- 塗り卵をしてワッフルシュガーをふり、焼成します。
- 香ばしい焼き上がり!バターたっぷりなのでこのままでもおいしいのです。
- カスタードクリームを作り、冷ましてからバターと合わせてホイップします(好みで生クリーム加えることも)。横半分にカットし、シロップをしませたブリオッシュにたっぷり絞り、サンドして出来上がりです。
トロぺジェンヌのバリエーション
上記のようにオーソドックスなトロぺジェンヌはカスタードクリームにバターを加えてホイップした「クレーム・ムースリーヌ」をサンドしますが、もっと濃厚なのでお好きなら、バタークリームをサンドして作っても。逆にカスタードにホイップした生クリームを加えれば(クレーム・レジェール)、ふわっと軽い仕上がりになります。
またクリーム自体にオレンジフラワーウォーターなどの香料や、リキュールなどでフレーバーをつけたり、カスタードクリームをチョコ味や抹茶味にアレンジしてもよいですね。
フレッシュ感を出したいときは、いちごやマンゴー、オレンジなどのフルーツをカットして少しサンドしても。
あくまでも主役はブリオッシュ生地とたっぷりカスタードなので、「ほんのり」がおすすめですよ。
クリームのくぼみにジャムやフルーツを入れてサンドしても。
オレンジやパイナップルなどお好きなフルーツをサンド・トッピング。
紅茶風味のブリオッシュにクリームとラズベリージャムをサンドしたアレンジ版。
ピスタチオペーストを加えたクリームとラズベリーをサンドしてちょっとリッチに。
おすすめのシロップのフレーバーは?
しっとりトロぺジェンヌを作るときにはシロップを程よくしみこませます。砂糖40gに対して水140gを合わせて沸かして作るシロップをベースにします。
ノンアルコールがよい方はレモン皮やオレンジ皮で風味つけたシロップがおすすめ。すり下ろしてシロップに加えましょう。
少しお酒が入ったほうがよい方はカスタードに合うリキュールがおすすめ。シロップに対して5~8%くらいがおすすめですが、お好みで調節してくださいね。
トロぺジェンヌのカスタードに合うリキュール
コアントロー
爽やかなオレンジ風味で、どなたでも好まれる味。カスタードのまったりとした風味に清涼感を与えます。
グランマルニエ
こちらもオレンジ風味ですが、ブランデーベースなので、少しシックな大人の風味に。秋冬シーズンにおすすめ。
キルシュ
さくらんぼのブランデー。カスタードとは相性抜群で、シュークリームのカスタードに加えることも。カスタードと一緒にベリー類やチェリーをサンドするときもおすすめです。
もっと簡単にトロぺジェンヌを食べたい!
トロぺジェンヌを食べてみたい! でもブリオッシュ生地をこねて発酵させて、、、は大変! という方には、市販の材料を利用するのもおすすめです。
市販のブリオッシュを買ってきて、横半分にカット。好みの風味をつけたシロップを軽くカット面にしみこませると、パサつき感がなくなり、クリームと一体感が出ます。
クリームも市販のカスタードクリームを利用するとより手軽に作れます。ホイップした生クリームとカスタードクリームを1:3くらいにあわせ、たっぷりサンド。よく冷やしたら出来上がりです。
おすすめの最新レシピ2選
柑橘香る、ベーシックなトロぺジェンヌです。わたしおすすめのしっとり柑橘風味のシロップがほんのりしみたブリオッシュ生地はソフトな食感。バター入りで濃厚感を出したカスタードクリーム(クレーム・ムースリーヌ)にさらにホイップした生クリームを加え、よりふわっと軽くしたクリームをたっぷりサンドします。軽すぎず、濃厚すぎず、ブリオッシュ生地とバランスがよく仕上がります。オレンジやパイナップルの果実入りもおすすめ。よーく冷やして召し上がってくださいね。
ベーシックなトロべジェンヌをアールグレイ風味にアレンジしました。ソフトなブリオッシュ生地にアールグレイ茶葉を焼き込み、しっとりとしみこませたシロップも紅茶を煮だして作り、さらに紅茶のリキュールで香り付けます。ふわっと軽いクリームをたっぷりとサンドして、よーく冷やして召し上がれ。フランボワーズジャムをほんのりサンドしてアクセントにしてもおいしくいただけます。
最後に
南仏の素朴な地方菓子のトロぺジェンヌ。華やかさはありませんが、しっとりしみじみしたおいしさがあります。ぜひ味わってみてくださいね。
コラム執筆:熊谷裕子(くまがいゆうこ)先生
公式Webサイト
この著者のレシピ一覧
葉山「サンルイ島」横浜「レジオン」世田谷「ル・パティシェ・タカギ」を経て、神奈川・中央林間でお菓子教室「クレーヴスイーツキッチン」主催。
文京区 にて「アトリエルカド」 も開講。著作に「デコレーションテクニック」「チョコレート菓子のテクニック」など多数。