神戸の人気ブーランジェリー「Ça marche(サ・マーシュ)」の西川功晃シェフを講師に迎え、2026年7月1日、富澤商店卸主催の製パン講習会を江別製粉 東京LABにて開催いたしました。
人手不足や原材料価格の高騰など、ベーカリーを取り巻く環境が大きく変化する今、「少ない負担で、より魅力的な商品を生み出す」ことは、多くの製パン現場に共通する課題となっています。
今回のテーマは、「生産性向上に向けて ~4種の生地から広がる多彩なバリエーション~」。
4種類の生地をベースにした効率的な商品展開や、日々の製造現場で実践できる工夫について、実演を交えながらご紹介いただきました。
また今回は、富澤商店卸からの「ぜひ使ってみてほしい」というリクエストにも多数お応えいただきました。西川シェフならではの視点で富澤商店の商品を活用した特別なルセットが数多く提案され、素材の魅力を引き出すアイデアの数々に参加者の関心が集まっていました。
西川シェフを中心に、第一線で活躍するブーランジェが集う貴重な機会

今回の講習会では、西川シェフを中心に、大澤秀一さん、久保田遥さん、三宅百花さん、崎山雄太さんにも運営・実演サポートメンバーとしてご参加いただきました。
大澤さんは西川シェフのもとで経験を積まれた後、ベーカリー「Comme'N(コム・ン)」を立ち上げ、パンの世界大会において日本人として初の総合優勝を果たしたトップブーランジェとして知られています。



久保田さん、三宅さん、崎山さんは現在もComme'Nの現役メンバーとして活躍されており、本講習会の運営を支えていただきました。
西川シェフを中心に、第一線で活躍するブーランジェが集い、それぞれの経験や技術、そして信頼関係が随所に感じられる、またとない豪華な講習会となりました。
富澤商店商品の魅力を活かしたルセット提案

今回の講習会では、富澤商店の商品を活用したルセットが数多く披露されました。
その中のひとつが、富澤商店のアールグレイを使用したパンです。
講習中には西川シェフから、
「この紅茶はおいしいですよ。今まで使ってきたものの中でもトップクラス」
とのコメントもあり、素材そのものの品質を高く評価していただく場面もありました。
単に原材料を紹介するだけではなく、その素材の魅力をどのように引き出し、お客様に喜ばれる商品へと昇華していくのか。実演を通して、その考え方まで共有いただけたことが印象的でした。
「やりすぎない」という商品開発の考え方

講習会を通じて印象的だったのは、西川シェフが繰り返し語られていた「やりすぎない」という考え方です。
今回ご用意した素材の一つにパッションフルーツのドライフルーツがありました。西川シェフは、加水して戻したパッションフルーツとカレー粉を組み合わせたルセットも試作されたそうですが、
「レシピとしては面白い。でも、現場で活かせるとは思えなかったので今回は持ってこなかった」
という趣旨のお話をされていました。
新しさや意外性を追求するだけではなく、実際の現場で無理なく再現できるか、継続的に販売できるかという視点を大切にされていることが伝わるエピソードでした。
現場で続けられる仕組みづくり

富澤商店の紫さつま芋フレークを使用したルセットの説明では、素材の活用方法についても興味深いお話がありました。
一般的にはフレーク(パウダー)からペーストを作って使用することもありますが、西川シェフはフレークをあらかじめペースト化せず、ドライのままフィリングとして活用。生地に包み込む際には、霧吹きで適宜水分を補いながら使用されていました。
その理由について、
「ペーストにしてしまうと使い切らないといけない。ドライのままなら保管ができる」
と説明されました。
おいしいパンを作るだけでなく、在庫管理やロスの削減、オペレーションの効率化まで含めて考えることの重要性を感じるお話でした。
現場で長く続けられる仕組みを作ることもまた、生産性向上につながる大切な視点であることが伝わってきました。
「もったいない」から生まれる新たな価値

講習会の中で西川シェフがたびたび口にされていた言葉が「もったいない」でした。
その考え方を象徴する例として紹介されたのが、「パン屋さんのチョコ(ショコラ オ クルトン)」です。
パンの耳や余った生地を焼いてパン屑にし、テンパリングしたクーベルチュールチョコレートと合わせて成形。さらにドライフルーツやナッツを加えて仕上げることで、見た目にも魅力的な商品へと生まれ変わります。
レジ横での販売にも適しており、サ・マーシュではこの商品を目当てに来店されるお客様もいらっしゃるとのことでした。
素材を無駄なく活用するだけでなく、新たな付加価値と利益を生み出す商品へと転換する発想は、多くの参加者にとって大きな学びとなりました。
また西川シェフからは、
「真似してくれていい」
という言葉もあり、業界全体の発展を願いながら惜しみなく知見を共有する姿勢が印象に残りました。
技術だけでなく、「考え方」に触れる時間

今回の講習会で特に印象的だったのは、西川シェフが質問に対して単に答えを示すのではなく、その判断に至る背景や考え方まで丁寧に共有してくださったことです。
製法や配合の話にとどまらず、「なぜそうするのか」「なぜそう考えるのか」を交えながら説明いただくことで、参加者の皆さまは西川シェフのパンづくりや店づくりに対する哲学そのものに触れることができました。
そのため今回の講習会は、レシピや技術を学ぶ場であると同時に、長年第一線で活躍されてきた西川シェフの思考や判断基準を学ぶ貴重な機会となりました。
「パンを通して誰かを喜ばせたい」

質疑応答の中で、参加者から次のような質問がありました。
「私にとってパンづくりは、お客様へ喜びや感動を届けることです。西川シェフはどのような思いでパンづくりをされていますか」
これに対し西川シェフは、
「僕もこの気持ちですね。もしパンづくりそのものが好きだからだけだったら、ここまで続いていなかったと思う。やっぱりパンを通して誰かを喜ばせてあげたい。」
と回答されました。
その言葉は、講習会を通して惜しみなく技術やアイデアを共有してくださった姿勢そのものを表しているようでした。
「もっと見せてあげたい」という想い

今回の講習会では、事前に予定していた内容に加え、当日追加で仕込まれた生地やルセットも紹介されました。
司会進行の中で、
「今日ご紹介いただいているルセットの多さからも、参加者の皆さまにたくさん教えて喜んでもらいたいというお気持ちが伝わってきます」
とお話ししたところ、西川シェフからは、
「確かにそれもありますが、ひいては今日の講習会を企画してくれた羽根さん(富澤商店卸の担当)を喜ばせてあげたいんだよね(笑)」
とのコメントもあり、会場が和やかな雰囲気に包まれる場面もありました。
当初予定していた内容にとどまらず、「これも見せてあげたい」と次々に提案を広げてくださった姿からも、参加者に少しでも多くの学びを持ち帰ってほしいという西川シェフの想いが伝わってきました。
パンづくりを通じた交流の場に

今回の講習会は、技術や知識を共有するだけでなく、製パンに携わる方々同士の交流の場をつくり、継続的なコミュニティ形成につなげることも目的のひとつとして開催されました。
講習終了後には、西川シェフらを囲んで集合写真を撮影。参加者の皆さまの表情からは、充実した一日を過ごされた様子がうかがえました。
その後の懇親会では、講習会で焼き上げられた数々のパンと軽食、ドリンクを囲みながら活発な交流が行われ、それぞれの店舗での取り組みや原材料の活用方法などについて情報交換する姿が見られました。
また、講習中とはまた違った距離感の中で、西川シェフの考え方や経験談に触れられる場面も多く見られました。参加者同士の交流はもちろん、講習会で学んだ内容をより深く理解する機会にもなったようです。
おわりに
今回の講習会では、生産性向上をテーマにした製パン技術や商品提案だけでなく、「現場で続けられるか」「素材を無駄なく活用できるか」「誰かを喜ばせるためにパンを作る」といった、西川シェフが大切にされている考え方に触れることができました。
また、懇親会を通じて参加者同士の交流も生まれ、店舗や地域の垣根を越えて学び合う場が生まれたことも、今回の講習会の大きな成果のひとつでした。
一つひとつのルセットに込められた意図や、その背景にある判断基準まで丁寧に共有いただいたことで、参加者の皆さまにとってはレシピや技術の習得にとどまらず、日々の店づくりや商品開発に活かせる視点を学ぶ機会になったことと思います。
生産性向上が求められる時代だからこそ、効率だけでなく、お客様への思いや現場で継続できる仕組みづくりを大切にする――。今回の講習会は、そんな西川シェフの考え方と実践に触れる貴重な機会となりました。
富澤商店では今後も、製パン・製菓に携わる皆さまの学びや新たなつながりを生み出す機会を通じて、業界の発展に貢献してまいります。
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